第1話 ページ6
『いーっくら……』
今、棘が何と言ったのかは分かった。「えーっと……」だろう。
何と言ったのか分かったのは良いが、雲行きが怪しい気がする。
『おかか……』
手を合わせて、申し訳なさそうにそう言った棘。
雲行きが怪しい気がする、というのは杞憂ではなかった。合っていた。
「おかか」というのは、彼が何らかのことで否定をする時に使う。校庭の時は「しゃけ」。つまり、浅草の某おにぎり専門店には行けない、という事だ。
『あっ、あー? あー……』
Aは、思わず「あ」しか言えないカオナシになってしまった。それでも彼が、どこかシュンとしているのを見ると、すぐに手と顔を横に振った。
『うううううん、大丈夫! あたしこそごめんね! ……あの、でも』
どうして、行けないのか、教えてくれても……? Aは嫌な汗をかきながら言う。そうすれば、棘はスマホを操作して、画面を見せてくれた。
画面に表示されているのは、いつ、どこで、誰が、呪霊を祓いに行くのか、が書かれた業務連絡。A自身も今朝見たものだ。
今日と同じ日付の場所を見てみれば、そこにははっきりと彼の名前「狗巻棘」と書いてあった。
「ほんっと、バカ」
真希の言葉にAは「うううう……」とうなだれる。そして頬杖をついた。
「中々うまくいかないなぁ」
あたりは暗闇にのまれている。現在の時刻は午後11時。学校の敷地内に現れた影は、任務に行っていた狗巻棘の物。
狗巻棘は任務から帰って来ていた。
重い脚を動かしながら寮へと向かう途中、はぁ、と棘は溜息をついた。
放課後、自分以外のクラスメイトは彼女と遊びに行ったのだろうか。――――行っただろうな、と思う。
自分があの人の誘いを――――せっかくの誘いを断ったから。クラスメイトは優しいから、慰めるために。
パンダは兎も角、真希もなんだかんだ言って優しいのだ。
――――ふと、自分に苛立ちを感じた。
もし、自分が準一級呪術師じゃなかったら、遊べていただろう。そうじゃなくとも、自分がもっと強ければ、もっと早く事を終わらせることが出来て、途中からでも合流できたことだろう。
「う、……うめぼし」
うまくいかないな。そう言いいそうになった。危ない。自分は呪言師なのだから、言葉を口に出すときは、気を付けなければいけない。
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しゆ - 続編が出ました。更新速度は遅いですが、よろしくお願いいたします。 (2021年3月18日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - 山田憂さん» コメント、そして温かいお言葉……ありがとうございます! これから寒くなる季節、山田憂さんも体調には気を付けてください! (2020年11月3日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
山田憂 - 夢主とキャラクターの細やかな心情が刺さりました…。体調に気をつけてお過ごし下さい。応援してます! (2020年11月2日 13時) (レス) id: 2e6603876c (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - チベットスナギツネさん» 神作!? ありがとうございます! 嬉しいです!! コメントもありがとうございました! (2020年10月30日 21時) (レス) id: 311275af3f (このIDを非表示/違反報告)
チベットスナギツネ - 神作・・・言いたいことは、それだけです。( ´∀`)bグッ! (2020年10月29日 23時) (レス) id: 4fb9137dc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゆ | 作成日時:2020年10月28日 22時