第１話 一日 ページ1
朝早く起きることがなくなった。
そのことに感謝をしながらAは、身を起こす。ジリリリリリ、となっている目覚まし時計の音を、腕を伸ばして止めた。
「ッシュン」
体温調節が難しい季節だ。Aは鼻をすすりながらそう思う。そしてパーカーを羽織って、向こうから日の光が入り込もうとするカーテンを引いた。
陽光が自室を包む。
そのまま窓も開ければ、昨夜雨が降ったのか、まだ太陽の熱で温められていない少し冷たい風が転がり込んできた。
５月の朝らしい朝だ、とAは髪を風に遊ばせながら思った。
布が被せられている、姿見――――全身が映る鏡の前を通り過ぎ、冷蔵庫を開ける。
そこから、大きめの鍋を取り出す。中にはこの前から作り置きをして置いたカレーが入っている。
白い陶器製の皿を出し、炊飯器から保温にしていたのでまだ少し暖かいお米をよそう。その上から、カレーをかけ、電子レンジに入れた。
電子レンジを３のところにセットして、Aは姿見の隣の姿見よりかは小さく座ってみるタイプの鏡を覗き込む。
そこに映っているのはもちろん自分の顔、と後ろの自分の部屋。当り前だ、鏡は物質を反射させるのだから。
Aは指紋が付くとわかっているが、その表面に指を這わせた。
地味な顔、ちゃんとしていない顔、ちゃんとしなきゃいけない顔、派手じゃない顔。
ハッと指を離した。
こんなことをしている場合ではない。制服を出して、布団を片付けて、今日は何をするか確認をしなければならない。
電子レンジが終了の合図を出して、Aは熱くなったカレーを取り出す。
布団があった場所にあるちゃぶ台に行く前に、スプーンとお茶を手に持った。
「いただきます」
一人分の声が部屋に響く。
行儀がよくないと従順承知しているが、Aはスマホを取り出し、食べながらスススと操作し始める。
業務連絡、メッセージが寝ているうちに来ていないか、ネット掲示板、の確認を終えたAは次に、テレビをつけた。
テレビをつけても見るわけではない。
そのまま立ち上がり、食器を台所へと運び、その足で洗面台へと向かう。
洗面台で、また自分の顔と面会する。
しかし今度は歯ブラシを手に持ち、歯磨き粉をつけ、歯を磨き始めた。暫くの間、部屋にはニュースを告げるキャスターの声と、シャコシャコという歯と歯ブラシがこすれる音だけが存在していた。
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しゆ - 続編が出ました。更新速度は遅いですが、よろしくお願いいたします。 (2021年3月18日 16時) (
レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - 山田憂さん» コメント、そして温かいお言葉……ありがとうございます！ これから寒くなる季節、山田憂さんも体調には気を付けてください！ (2020年11月3日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
山田憂 - 夢主とキャラクターの細やかな心情が刺さりました…。体調に気をつけてお過ごし下さい。応援してます！ (2020年11月2日 13時) (レス) id: 2e6603876c (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - チベットスナギツネさん» 神作！？ ありがとうございます！ 嬉しいです！！ コメントもありがとうございました！ (2020年10月30日 21時) (レス) id: 311275af3f (このIDを非表示/違反報告)
チベットスナギツネ - 神作・・・言いたいことは、それだけです。( ´∀｀)bｸﾞｯ! (2020年10月29日 23時) (レス) id: 4fb9137dc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゆ | 作成日時：2020年10月28日 22時
