普通に愛して欲しかった。【夏油傑】

１９：降伏 ページ20

屋敷中が真っ黒な結界に覆われる。まるでその様子は人間を飲み込んでいくようだ。夏油は自分がAの領域に閉じ込められたと悟り、すぐさま彼女がいる地下室へ向かった。だが、もうそこに牢屋は存在していない。あるのは歪な形をしたそれと、中心で佇む特級呪霊のみ。




「派手にやってくれたね、A」

『待ってたよ、傑』




両者の間には純粋な怒りだけでなく、歪んだ愛と憎しみも隠されている。誰も彼らを止められない。
最初にAが夏油の腹に一撃を入れようとしたが、彼も特級だ。そう簡単には攻撃を喰らわない。それを見て彼女はますます呪力量を増やし、術式を繰り出した。




＿＿＿＿領域内での術式は、必ず、




『術式順転＿＿＿＿真』




特級呪霊による領域内での術式。当たれば命の保証はない。だが、




「……残念」

『どうして、当たっていないの……！』

「当たっていない、というか」




Aが術式の発動を止めた。と、夏油は口元を歪ませて呟いた。彼の言う通り、彼女は術式を出したはずなのに、出さなかった(・・・・・・)のだ。本人の意思など関係ない。彼女の本能が夏油傑という男にすでに降伏していたからだ。
彼の術式は、降伏した呪霊を球状にして取り込み、自由に操る呪霊操術。Aはまだ取り込まれてはいないが、本能は彼に従っていたらしい。


彼と出会った時からずっと。

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