＃54 ページ14
神威side
白い、広い空間に俺はいた。
何これ、と呟き駆けだした。
走りながら考えた。
闘いで負傷して死の淵？
いや違う。
ずっと艦内の、自分の部屋にいた。
じゃあ夢？
試しに腕を軽く叩く。
地味に痛い。
夢じゃないんだ。
幾ら走っても終わりや出口らしきものは見えない。
攻撃されてる、という考えが頭を過ったけど阿伏兎に任せればいいや。
立ち止まってごろんと横になる。
その瞬間、景色が変わった。
急いで起き上がる。
手を床についたら、砂がついた。
辺りをよくよく見まわすと見覚えがある。
高いビルに和風の建物、向こうにはターミナルが建っている。
通行人は着物で、ちらほら天人が歩いている。
呆気にとられていたら、見つけた。
Aの、藍色の傘。
立ち上がり、駆け出す。
「A、待ってよ！俺だよ！止まってよ！」
叫びながらも、微笑みが零れる。
Aに久々に会えるんだ！
自然と足が速くなる。
Aに近づくにつれて足を遅くしていく。
「あ…」
やっと見つけたのに、誰かと相合傘をしていたA。
誰コレ。
下から黒色の服が見える。
待って、俺この服見たことある…。
真選組の…アイツだよね…？
何で？何で俺じゃないの？
「A！何でだよ！」
咄嗟にAの腕と肩を掴む。
感情に任せて強くゆすると、傘が飛ぶ。
「何で俺じゃない…の…」
気づいてしまった。
左手の薬指にはまる指輪があるのを。
Aが今にも泣きそうな、罪悪感たっぷりの眼で俺を見つめていることを。
その顔が刺さって、諦めて引き返した。
傘なんか…飛ばなきゃよかったのに……。
全然ダメじゃん……。
-------
どこまで歩いたのか分からない。
段々足が覚束なくなってきて、倒れる。
あぁ…傘差してないもんな…
視界が白に染まって、意識が遠のいていく
.
.
「うっ……はぁっはぁっ…」
寝苦しくて、目が覚めた。
辺りを見回すと、いつもの部屋だった。
いつもの寝間着。
汗で濡れた寝間着が苦しくて、着替える。
「夢で良かった……」
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作者名：うゆに塩湖 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2021年7月8日 20時
