検索窓
今日:6 hit、昨日:14 hit、合計:178,711 hit

何も知らない2 ページ4

目覚めの悪い朝。

こんな日々にも、もう慣れてしまった。


朝食をとると私服へと着替える。

今日は休日だ。

一週間分の食材を買いに行く日。

「いってきます。」

一足の靴を履いて、外へ飛び出した。


快晴だ。


大体の食材を買い終え、帰り道を行く。

おまけにもらった、たい焼きを手に歩いていると、土手の近くに倒れそうな男の子を見つけた。

視線に気づいたのかこちらを見る白髪の子。

と、同時に彼のお腹が音を上げた。

恥ずかしそうに目を伏せた彼を放っておくほど、ひどい性格をしていない、と私は思っている。

彼に駆け寄り、ちょうど手に持っていたたい焼きを渡した。

「ごめんね、今すぐに食べられるものってこれくらいしか無くて。」

その細い手にたい焼きを握らせ、立ち上がった。

このままでは、きっとこの子は遠慮して食べられないだろう。

「それじゃあ、お元気で。」

荷物を持って歩き出した私に、慌てて彼は口を開いた。

「ありがとうございます。あの、え、と、僕は、中島 敦です。」

他に言うことが思い浮かばなかったのだろう、口に出された中島 敦という名前に苦笑いを浮かべながら、そちらを静かに振り返った。

「私は、太宰 Aです。そのたい焼き、おいしいので味わって食べてくださいね。」

「は、はい。」

それでは、と再び足を進めた。

これがいつもより、ほんの少しだけ変わったこと。

ちょっとだけ歯車が動いた。

でも、それに気づくのは、まだ先のこと。

何も知らない3→←何も知らない1



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (281 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
509人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:詩織 | 作成日時:2016年11月6日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。