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何も知らない9 ページ11

学校を終え、住所が書かれた紙を頼りにおにいちゃんの職場へと向かう。

鞄に入っているのは、おにいちゃんの携帯。

きっと今、おにいちゃんは困っているだろう。

待ち合わせの場所に行くと、そこには大きな建物が建っていた。

「うわー」

思わず声をあげる。

ふと、視線を感じそれを辿ると黒い帽子をかぶった青年が入口に立っていた。

「あ、あの。中、原、さんですか?」

恐る恐る聞くと、

「あぁ、あんたが太宰の妹か」

「は、はい。太宰Aです。いつも、おにい、兄がお世話になっています。今日は、案内よろしくお願いします。」

広い所だから、とわざわざおにいちゃんの上司の方が、案内をしてくださる方を用意してくれていた。

ペコ、とお辞儀をすると、ついてこいと手をひかれた。



しばらく後をついていくと、目の前には大きな扉が現れた。

「中で、首領がお待ちだ。」

そう言うと、その扉をノックする。

「はいっていいよ。」

柔らかい声が聞こえた。

電話越しで聞いた声だった。

中原さんに連れられるがまま、部屋のなかへと足を踏み入れた。

「ふふっ、よく来たね。Aちゃん。」

「は、初めまして。え、と」

「森 鴎外だよ。」

「は、はい、初めまして、森さん。」

緊張のあまり噛んでしまったが、しっかりと一礼する。

頭をあげ、ゆっくり辺りを見回すが、いるのは森さんと中原さん、そして床で絵を描く女の子だけ。

「あの、兄はどちらへ?」

その言葉に森さんは笑んで答えた。



「ここには、いないよ。」

いない?

「えーと、それではどこに行けば会えますか?」

こんなに広くては探すのは大変だ。

部屋を教えてもらえれば会いに行って、携帯を渡そう。

でも、

「この建物の中にはいないよ。」

出かけているのか。

「そうですか、あの、ではこの携帯をお渡しするので、兄が帰ってきたら渡していただいてもよろしいですか。」

直接会えないのは悲しいが、仕方がない。

だが、返ってきたのは予想外のことだった。

「やはり、君は何も知らないんだね。」

「え?」

「太宰君は、四年前にここを辞めて、今は探偵社で働いているよ。君には、このことですら伝えていなかったようだね。」

頭が追い付かない。

どういうこと。

なぜ、森さんは私をここへ招待したの?


ここにいてはだめだ。


頭の片隅で、警報が鳴り響いていた。

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作者名:詩織 | 作成日時:2016年11月6日 11時

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