SS…HBD☆20190125 (ページ3)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:12,769 hit

③ ページ3

.

仕事から帰って、買ってきたものをテーブルに広げた。
この日だけは自分の好きなものより櫻井の好きなものを買ってしまう。

自分の食に関しての好みは、半分以上櫻井に構築されたと認識している松本にとって、櫻井と食の好みがごく似通っているのは当然のことで。
広げた料理も、間違いなく自分も好きなものだった。

お気に入りのシャンパングラスを2脚出して、お気に入りのランチョンマットに置く。
自分で作った小さめの皿に料理を取り分けて、冷蔵庫からケーキを出してデザートティッシュに飾った。

探しまくって買った1982と書かれたネックラベルのシャンパンを抜いて、グラスに注ぐ。
目の前にもうひとり分の料理とケーキとシャンパン。
もちろんここにはいない櫻井が食べたり飲んだりしないから、あとで松本が全部食べるのだけれど。
それを寂しいとも思わず、ただただ祝うことができて嬉しいとさえ思ってしまう。

「37歳おめでとう。また一年、元気に過ごしてね。」

お約束のように毎年同じ言葉をつぶやいて、キンとシャンパングラスが綺麗な音を立てた。
最初の頃は陰膳みたいだな…と思ったものだけど、あながち間違いでもないだろう。

「いただきます」とひとりでも手を合わせるようになったのも櫻井の影響だ。
食べ物を残さなくなったのも、美味しく食べるようになったのも。

幼かった少年の頃、周りにはキラキラした人がたくさんいた。
可愛がってくれる人も優しくしてくれる人もいた。
なのに櫻井だけは違って見えた。
憧れて入った世界の中で、櫻井だけが浮き上がるように。

ふと、思い出してくつくつと笑う。

ホントにどれだけ好きなのか。
いや、捕らわれているのか。
しかも櫻井が窺い知れないところで。

「まぁ…勝手に捕らわれてるんだからしょうがないよな。」

ひとりごちてシャンパンを飲む。
美味い。間違いなく。
だって、ここにあるすべては櫻井のためのものだから。

ムール貝のオイル漬けを食べようと、その大き目の身にフォークをさしたところで、チャイムが鳴った。

松本のマンションは強固なセキュリティを誇っていて、住人以外が部屋に訪れるには、まずコンシェルジュを通して住人の許可が必要になる。
もう時間は21時近くて、この日に約束している友人などいるはずもない。

「誰だ？」

コンシェルジュからの呼び出しに答えると、松本の部屋に訪れたのは、今日こそ部屋に来るのに似つかわしくない人物だった。

.