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Bite 53 ページ8








久々に彼の体温を含んだその部屋の空気は

それまでの虚無感を滲ませたものとは、明らかに異なって



重く、鈍く



その存在を液体の中に沈み込ませるような

そんな、妙な質感を帯びていた






.






「… 飲める?」



彼をソファに座らせて

温かい紅茶をその目の前に置けば


彼はゆっくりそれに目を向けてから
頷くことも、首を振ることもなく

また、静かに視線を下げた







俯いたまま、

小さな呼吸と瞬きだけを繰り返す彼の顔を、じっと見つめると




彼はその状態のまま

静かに、口を開いた









「… おれ、
すてられたんだ」









… あくまで淡々と、抑揚なく

つい先程知ったばかりの事実が、その赤い唇から溢れる







「… うん、」








微かに揺れる、その黒髪

心臓の裏に感じる痛みを押さえ込んで
小さく相槌を打った









「… いらないんだって、おれ」









"母親に、捨てられたんです"









「… おれは、

ひとりでも、大丈夫なんだって」









夕日の差し込む、喫茶店の角席

そこで聞いた過去と重なる、彼の言葉





まるで、思い返すかのように
その日の記憶を私に伝える彼に

抉られたように、胸が痛んで





目の前で俯向く彼の首に、そっと腕を回して

その冷たい身体を、また抱き寄せた







何も、言わなかった







… いや、正確には

何も、言えなかった








これまでの私の退屈すぎる人生

けれどその中には、当たり前のように家族がいて



そんなありふれた"幸せ"の中で生きてきた私には

彼の気持ちは、到底分からない







だから、せめて





彼の身体から伝わる、微かな震えが止まるまで

彼が口にした苦い過去の記憶が、少しでも遠のくまで






彼を抱き締めていたいと、

そう、思ったんだ









彼の首に回した腕に、

またきゅっと力を入れた瞬間

ふと、
私の腕に、彼の手がかかって




ゆっくりと身体を離せば

その漆黒の瞳に、私が映る









「…… もう、噛まないから、」

「… え?」









じっと私を見据えたまま、

その瞳が、わずかに揺れた瞬間




すっと私の頬を、

その冷えた大きな手が包んで









「……………… A、」









その赤い唇から、

私の名前が溢れれば







まるで、何かを愛おしむように目を細めて

淡く、でもはっきりと

彼は、言葉を紡いだ









.








.









「………… 抱きたい」









.

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設定タグ:防弾少年団 , BTS , ジョングク   
作品ジャンル:恋愛
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Agust d(プロフ) - 夢主がナムジュンさんにプロポーズされたときの気持ちがすごく伝わりました。 ナムジュンさんがいい人すぎて余計に辛さを感じました これからも応援しています♪ (2019年10月14日 22時) (レス) id: fea73733b9 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま((くん))#チングさがし#元パク・モモ - 涙が止まりません……泣 心がギューって締め付けられるようです笑。素敵なお話でした!!!もうグクは帰ってこないのかと思いましたが、主人公と幸せになっている姿が見えます!!番外編とか見たいなー(小声)改めて、素敵なお話をありがとうございました! (2018年2月2日 9時) (レス) id: 2612f635ae (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - ジョングクが初めて過去を話し、愛を伝えた瞬間に涙が溢れました。孤独しか知らないジョングクと優しく見守る主人公の今までにない新鮮な物語にとても魅了されました。ジョングクの読者の知らない空白の3年間が気になりすぎて仕方がないです(笑)本当に感動しました。 (2016年12月28日 16時) (レス) id: 8614be4ddf (このIDを非表示/違反報告)
Jk - ええええええ。。。。終わっちゃったよ… 番外編とかみたかったです!!!グクが主人公に愛してるって言った瞬間もう本当に号泣しました。泣き声がうるさく妹に怒られるぐらい泣きましたね。本当にグクがやっと思いを伝えてもう完膚なき幸せです! (2016年12月23日 20時) (レス) id: 23efb5129a (このIDを非表示/違反報告)
ソジン(プロフ) - 主人公とグクが再会したシーンで涙が止まらなくなったのは私だけじゃないはず。すべて読ませていただきました!こんな素晴らしい作品を書いてくださった作者さんほんとにありがとうございます!これからも更新頑張ってください!!(*´ ˘ `*) (2016年6月20日 21時) (レス) id: e77b47a418 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:瑠良 | 作成日時:2016年2月11日 0時

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