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故旧忘れ得べき -3- ページ11

『正確には、“殺してしまった”』

無関心な母上がどんな反応をするか興味があって、殴られるのを覚悟で母上の手を握った。

『……うん。私が、殺した。母上を』

途端、母上は断末魔を上げ消えた。

『異能力とはそう云う物だ。成功する者も居れば、身を滅ぼす者も居る』


────母上

────私が……母上を……



『……じゃあ私は、後者だね』

『嗚呼』

『…………おじさん』

『(おじさん……)何かな?』

『私は────何時死ねるの?』

始終微笑んでいた彼の人から笑みが消えた。

『親を殺すのは罪が重い。死罪にもなると勉強した。

だから誰かが、私を殺してくれるかも知れないと思って……此処に居る。けど、皆私に触れて……勝手に死ぬ』

『其れは困った輩も居たものだね』

襤褸を纏った男。傷だらけの男。私の何倍も大きな身体の男。

みんなみんな、私に触って砂になった。

『君は其の余りに短い人生を、望まぬ力で無駄にしてきた』

『……うん』

『でも、此れから先を成功させる事は出来る』

不意に顔を上げた。

『沢山蔑まれたろう。傷付いたろう。可哀想に。足掻こうが嘆こうが、今の君に居場所は無い』

『っ……解ってる』

でもね────

『私なら其れを変えてあげられる』

『え』

雨が、少しずつ上がっていった。

『お嬢ちゃん、私と一緒に来ないかね?』

『……』

『私が君に、“居場所”をあげよう』

革手袋越しのその手を
闇に浸けられたその手を

私は取ってしまった。

『私の名は森鷗外。Aちゃん、今日から宜しくね』

高見さん→←故旧忘れ得べき ‐2‐



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作者名:水無月碧音 | 作成日時:2018年6月25日 16時

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