16針 ページ17
『Aさん、ねぇ。
同い年なんだからさん付けしなくていいって言ってるのに。龍之介くん』
「相変わらずですね。」
龍之介くんは軽く目を閉じてコホッと咳を一つする。
「僕と貴方との地位の差を考えると当然のことです。」
『そんな龍之介くんも部下を持たされるぐらい昇進したんだねぇ。おめでとう。』
にっこり笑って祝福の言葉をあげる。
「あなたっ！！」
樋口さんは龍之介くんを馬鹿にされたと思ったのか銃口を私に向けた。
龍之介くんもお気に召さなかったようで
「12歳にして部下を持っていたAさんに言われると嬉しくはありませんね。」
『昔の話でしょう？
それと、先に部下を持っていた私からの助言ね。』
そこで言葉を切って樋口さんの方に手を向ける。
『部下にはちゃんと命令を聞かせなきゃダメでしょ？
異能力 【天空の蜂】』
次の瞬間樋口さんの手に持っていた銃が弾かれる。
「なっ！？」
樋口さんは驚いて弾かれた銃を見る。
銃は1m程の太い針のようなもので壁に突き刺さっていた。
「A、今日はもう帰るよ。」
治くんが呆れたように私を呼ぶ。
『んー、わかりましたよー。』
治くんは敦くんと谷崎くんを抱えてマフィア2人の横を通り過ぎる。
私もナオミちゃんを抱きかかえてその後に続く。
「くっ………！」
「…………」
樋口さんは悔しそうに歯を食いしばる。
龍之介くんは無言で私達の背中を見つめる。
ヒュッと小さい音がした途端、私のすぐ後ろには口を大きく開けた黒獣が迫っていた。
しかし、それは私に届くことなく３本の大きな針が口元に突き刺さり地面に縫い付けられた。
首を少し後ろに向け地面の黒獣に向けていた視線をゆっくりと上げていく。
『龍之介くん。』
冷たい声が響く。
こんな声を出したのは久しぶりだ。
呼ばれた当人は体を強ばらせた。
その後ろにいる樋口さんは顔が真っ青で小刻みに震えている。
それほど、今の私は先程までと空気が違う。
当たり前だ、私は怒っているのだから。
『龍之介くん、今日は退くんじゃなかったんですか？それとも気が変わりましたか？
いいですよ、売られた喧嘩は買う主義ですから。』
自然と殺気が滲み出る。
龍之介くんと目が合うと彼は軽く俯いて
「いえ、やめておきましょう。」
と言って黒獣を外套に戻した。
私はまた歩き出した。
今度こそ後ろからは何も迫ってくることは無かった。
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作者名：だし丸 | 作成日時：2017年2月3日 0時
