5章 2-2 ページ23
「ご心配なく」
フョードルの瞳が残酷に輝いた。
「あなたの失われた記憶は、ぼくが埋めてさしあげます」
どうやって、と、澁澤が問いかける猶予は与えられなかった。
フョードルは笑いながら、隠し持っていた果物ナイフを手中におさめる。
フョードルが何をするかをいち早く察知したAはヒュッと息を飲んだ。
白刃が、澁澤の頸を斬り裂いた。
「なっ……!」
澁澤が両目を剥く。
赤い血飛沫が澁澤の視界を覆い尽くした。
激痛は衝撃に近くに、神経は痛みを感じることもできない。
景色が異常にゆっくりと見えた。
「それが死です」
フョードルの笑みが血の向こうに映る。
「何か思い出しませんか?」
澁澤の耳奥で、轟々と強い風が吹く。
「……そうか」
得心がいった。
倒れる体を自覚しながら、澁澤は思う。
「この感覚を…私は、知っている」
終焉でありながら、華々しく命が煌めく黄金の時間。
「──そうです」
ドラコニアに居たフョードルが、記憶を旅する澁澤龍彦に頷くように独りごちた。
コレクションルームであるドラコニアには、もはや生きている人間はフョードルとAしかいない。
床には太宰の遺体が横たわり、さきほどまで居たはずの澁澤龍彦の姿は忽然と消えていた。
『これが……貴方の思い描いていたシナリオ…?』
Aは太宰の横でしゃがんだまま、鋭い目線でフョードルを睨みつける。
けれどフョードルは気にすることもなく、巨大な赤い光球の下で手にした髑髏に視線を落とす。
ぱきり。
髑髏に塗られていた塗料が剥がれる。
ぺき、ぱきぱき、ぱきんっ──バリバリバリバリバリ!
大量の虫が卵から孵るような音を立て、すべての塗料が剥がれ落ちる。
それこそ、虎の爪痕。
フョードルが憐れみをこめて澁澤の髑髏に呟いた。
「あのとき、あなたは死んだ。
そして、あなたのコレクションを引き継いだのは」
視線が、ちらりと、さきほどまで澁澤龍彦の立っていた場所に向けられる。
「死体から分離したあなた自身の異能だったのです」
おそらく、骸砦にいた澁澤龍彦の体のどこかには、赤い結晶が輝いていただろう。
自分が人間だと思い込んでいた異能。
まるで喜劇だ。
フョードルが髑髏を掲げ持つ。
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jumpcontrolbear(プロフ) - 消しゴムクイーンさん» コメントありがとうございます!!そうだったんですか……ぜひ余裕がありましたらDVDでご覧下さい!終始悶えます(笑) (2018年9月9日 1時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
消しゴムクイーン(プロフ) - こんにちは。DEAD APPLE…私、見れなかったんですよ!見たかった……これからも頑張ってください!! (2018年8月15日 13時) (レス) id: b53efceb36 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - なたさん» コメントありがとうございます!!本編の方も読んでくださってるんですね!ありがとうございます!すごく嬉しいです!更新頑張ります! (2018年5月4日 23時) (レス) id: c47121f885 (このIDを非表示/違反報告)
なた - このシリーズめっちゃ好きなのでデッドアップル編まで読めて嬉しいです!これからも頑張ってください (2018年5月4日 22時) (レス) id: a61dc9da8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だし丸 | 作成日時:2018年3月23日 18時