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Aが最初に感じたのは痛みだった。
首に食い込む指の痛み。
その次に、息苦しさ。
そして『生きたい』と強く思った。
庭で雨に打たれ、咳き込みながら三日月宗近を見上げると、今にも泣きそうな顔をしていた。
Aに自我というものが芽生えたのは、ずっと前であったが、それが確かなものとして固まり始めたのはこの本丸へ来てからだった。
刀剣男士たちからぶつけられる強い感情や、言葉によってAの心が揺さぶられ、『自分』というものを認識し始め、そして今、三日月宗近によってそれが確かなものへと変わったのだ。
「わかるだろう?
お前には、俺の気持ちが」
三日月宗近が、Aへ歩み寄りながら、救いを求めるような声で言った。
自我が確かなものになったと言っても、それは他の人間にあるような自我とは程遠く、ただ、自と他を認識し、己を個として区別することができるに過ぎず、感情すら構築されていない。
他の感情を受け入れ、それを他として考え、その感情を共感、または同情し、哀れむことはできない。
なので『わかるだろう?』と問いかけたところで、Aがわかるはずもなく。
「わからない」
とAは言った。
その解答は気に食わなかったらしく、忌々しげに三日月宗近は顔を歪めた。
「わからないだと?
苦しみから逃れるために、自我のないふりをしていたというのに」
三日月宗近は、勘違いをしていた。
Aはふりをしていたのではなく、本当に自分を認識できていなかったのだ。
人形だからと、感情を持つなと、言うことにのみ従えと言われ続けてきたAに、自我が確固たるものとして芽生えるはずもない。
だが、三日月宗近はそれを、『人を呪い殺すという家業から、自分を守るために、自我のないふりをしていた』と思っているのだ。
「わからない。
お前の苦しみも、恨みも、
何故、今泣いているのかも」
Aはゆっくりと立ち上がった。
そして、三日月宗近の頬へ手を伸ばす。
同じ様に雨に濡れている頬に手を添えると、人らしい体温を感じた。
それと同時に、雨に紛れて温かな雫が手の甲を滑り落ちた。
「私は、お前ではない。
お前ではないから、理解ができない」
「……では俺は、どうすれば良い?」
三日月宗近は、左頬に添えられたAの右手に自分の左手を重ねた。
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藍央(プロフ) - そうですか、すいません余計でしたね。 (2019年3月4日 12時) (レス) id: 3d1ad82df4 (このIDを非表示/違反報告)
ブラッディ・ドリーマー(プロフ) - 藍央さん» 申し訳ありませんが、キャラクターの性格、話し方等の指摘は受け付けておりません。詳しくは続編に書いてありますが、私も私なりの考えのもと書いています。ご了承お願いいたします (2019年3月3日 23時) (レス) id: 71334657d1 (このIDを非表示/違反報告)
藍央(プロフ) - 江雪や宗三の話し方はわざとですか?仲間の刀剣男士には普通に喋ってもいいと思うのですが… 話はすごく面白いです! (2019年3月3日 21時) (レス) id: 3d1ad82df4 (このIDを非表示/違反報告)
ブラッディ・ドリーマー(プロフ) - 面影草さん» お気遣い、ありがとうございます(^^)私は、気にしないようにしているので、今後、もしまた悲しいコメントがあったとしても、放置してしていただいて構いません。いつも読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m (2019年2月26日 9時) (レス) id: 3090af0f06 (このIDを非表示/違反報告)
面影草(プロフ) - ブラッディ・ドリーマーさん» 返信ありがとうございます。文面がちょっと受け取る側からしたら火に油を注いでるように感じたかもしれません。喧嘩をするつもりはありません。今後、このようなコメントがなくなると良いですね。 (2019年2月26日 9時) (レス) id: 50c6120963 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あき | 作者ホームページ:
作成日時:2019年2月7日 16時