悟が彼女泣かせた件について。【五条悟】 (ページ35)

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３５　また明日なんてもう言えない。ページ35

悟の事を散々クズだの言って来たけれど、
私も案外クズなのかもしれない。

『………傑に、間違ってほしくない、ていうのは勿論ある。
けど、同じくらい、傑の思った…傑の思う正しい道を進んでほしいとも思う。』

訳せば、どちらでもいい。になる。
きっと傑は私がそういうニュアンスで言ったのを
分かっていると思う、優等生だもん。

それでも、傑は呪詛師への道を選んだ。
選んでしまった、選んでくれた。
私はどちらの言葉も使える。

もう少しはっきり言えば、
どちらの方向に進んでも頑張って。になる。
私はきちんと背中を押してしまった。

呪詛師という、敵への道を。

それが重大な罪だとか、
主い罰だとか。

そんな事は今、頭の中になかった。

私は、違う道へ背中を押してしまった。
背中を押される、と勘違いされても
可笑しくない言葉を言ってしまった。

呪詛師なんてやめて。だなんて、
そんな可愛い事が言えなくなってしまった。

手は不思議と震えなくて。
何ならさっき電話した時よりも冷静だった。
人間は変で馬鹿。

何度も何度も同じことを繰り返して、
何度も何度も馬鹿やって、死んでいく。
それが悪いとは言わないし、
大体の人の一生はそれだもん。

傑が、その〝大体の人の一生〟を、外れてしまった。
取り返しは、もうつかない。

何を話したかなんてもう覚えていない。
気づけばコーヒーは冷めていた。
きっと会話で飲めなかったんだろう、初めの1口以外。

傑は席を立った。

「…ありがとう。じゃあ。」

『………ッぁ……！！』

行っちゃダメ、行かないで。
だめだよ、呪詛師なんて…！！

でも？
私は一度背中を押したよね。
そんなこと言える立場じゃない。

傑が席を立ってドアの前に。
そこ迄がスローモーションに見えた。

言わなきゃ。
私のクズさより、傑の方が大事。

『すぐるっ、』

机に手をついてやっと立つ。

カランカランカラン……。
乾いた鈴の音がした。
そこで時間軸が戻って何時も通りに。

腰が抜けたみたいになって、
ストン、と椅子にまた座った。
ああ、私………クズだ。

傑はきっと一般人を呪い殺す。

もう、またが言えない。またねが。
じゃあねが言えない、次も言えない。
ありがとうも、ごめんねも。

ああ、もう高専で、あの時の様に
傑とはきっと、話せない。

傑のカップは空っぽだった。