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医務室の扉を閉めて、はぁ、とため息をつくと、Aはふらふらと私のところに歩いてきた。
「硝子〜」
珍しく私に抱きついて甘えてきたAを受け止める。
座った私の顔に胸が押し当てられて息が苦しい。Aからはコーヒーの匂いがした。
「どうしたの?」
「んー、私の硝子タイム」
なに、硝子タイムって。
とりあえず息が苦しいから、Aを少し押し返すとするりと離れていった。
そのままAは珍しそうに医務室の中を見て回る。
「……それで、本当は?」
私がそういうと、Aは足を止めた。
カマをかけてみただけだったが、本当に何か他にもあったようだ。
振り返ったAは感情の読み取れない笑顔を私に向けた。
「……悟、結構怪我してた?」
そのことか。
本当に怪我することがない五条が怪我をして帰って来たことを、一応心配はしていたようだ。
「まぁまぁ、ざっくりいってたね。でもこれが初めて」
「そっかー」
本当にそれだけだった。Aは悟のこと、気にしてやってくれ、とだけ言って医務室を出て行こうとした。
私は扉に手をかけたAを呼び止めた。
それはAの方が適任じゃん。
「……Aさ、五条となにかあったの?」
「なにか?んー……なんもなかったと思うけどなー」
じゃ、とひらひら、と手を振ってそのままAは医務室を出ていった。
Aは平然と何もなかったと言った。
私はAの出ていった扉を見つめて考えを巡らせていた。だが、結局何が起こったかまではわからなかった。
掴みどころもなく、Aはいつもひらひらと私たちから逃げていく。
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作者名:フルーツパンチ侍 | 作成日時:2023年9月14日 12時