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前にもAは大好きだった恩師と口走っていたことがあった。
「先生と見た星空は、1人で見上げる星空よりも綺麗だった。……でも、悟と見る星空も、先生と見た星空と同じくらい綺麗なんだな。この星空も好きになった」
やっと顔を見せたAは、少し泣きそうな顔で嬉しそうに笑って俺の頭を優しく撫でた。
初めて、俺はAにそんな顔を向けられた。
音が消え、世界が止まったように見えた。この世界には俺とAしかいないんじゃないかとさえ錯覚した。
「悟の目は、この星空によく似ているな。今夜は私の独り占めだ」
いたずらっ子のような笑みを浮かべながら俺の視界をそいつは占領する。
さらりとAの片手の指の腹が俺の顔を滑った。
こいつが独り占めするなら、俺も独り占めしていいだろ。
俺は目の前にあったそのAの首に片手を回していた。そして引き寄せた。
いとも簡単に触れ合った唇は思った以上に柔らかく、甘かった。
それをもっと味わうようにAの唇を貪った。首の後ろに回した手に力を入れ、逃げようとするAを押さえつけた。
「ん”ぅっ……？！」
唇の隙間から熱いものが俺の口内に侵入し、その中をかき乱した。
舌を絡め取られ、互いの唾液が混ざり合う。俺の荒い息継ぎと、いやらしく響く水音がやけに大きく脳内に響いた。
俺の口の端から混ざりあって溢れた唾液が垂れる。
体の内側からもぞもぞと熱を帯びながら膨らんでくる波を感じた。
甘い息が俺の肺を満たす。こんなキスは、したことがなかった。
Aが唇を離したことで、俺は首に回した手を離してしまっていたのだと気付いた。
Aの、とろんとした目は真っ直ぐに俺を捉えていた。
その唾液で光る唇は、輝く細い糸で俺の唇と繋がっていた。
体の奥で波打つ情動が収まらない。
俺はAの顔に手を伸ばしたが、それは簡単にかわされた。
「……やめとけ。後悔するぞ」
そう言ったAの声は静かで、行き所をなくした俺の手は宙に浮いていた。
Aはその手を握り、もう片方の手が、俺の体のざわつきを塞ぎ込むように、俺の目を覆った。
後悔なんて、もう遅い。
お前が変な事を言うから。Aの、せいなのに。
握られた手でトン、トン、とゆっくり胸でリズムを刻まれ、昨日から寝不足だった俺の体は水中に落ちていくようにふわっとした感覚に包まれていく。
最後に見えたのは、ゆらゆらと夜空に溶ける白い煙だけだった。
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作者名：フルーツパンチ侍 | 作成日時：2023年9月14日 12時
