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空に吐き出される白い煙だけは見えた。無駄にでけぇ乳ぶら下げやがって。
また、温泉のあの場面が思い浮かびそうになって、頭を無にした。
「悟、見てみろ。田舎の星空はいいぞ」
Aの乳が消えた俺の視界に広がったのは、キラキラと宝石箱をひっくり返したような星空だった。
「あれが暴風天バリゲーンで、多分その下のキラキラしてんのが豪氷天グリザード。それでその横ら辺にあるのが灼爍天ブレアで春のドラゴ◯クエスト……って、覚えてるもんだな」
「違ぇわ。それただのドラ◯エじゃねぇか」
「え。そう教えられたんだけど」
「誰に吹き込まれたんだよ」
夜のその星々を指差しながら、Aはそれを指でなぞった。トンチンカンなことを言ってやがる。
Aは教えられたことが全くのデタラメだったと知って、ショックを受けているようだった。
だが、星を眺めるAは、さっき俺の名前を呼んだ時と同じ表情をしていた。
その目にはなにが映ってるのか、俺にはわからない。
「あ、見ろ!流れ星!!」
俺の頭をぽんぽんぽんと軽く叩いて空を指差すAはさっきまでとは打って変わって子供のようだ。
俺の顔を覗き込んでしきりに見たか?!ときいてくる。お前の乳と顔面が邪魔で見えねぇわ。
Aがパンっと両手を合わせる。
「腐れ天パの頭に流れ星が直撃しますように。土方前髪V字郎がマヨネーズで腹下しますように。あと、クソみたいなジジイが全員死……んだら私のお客サマがいなくなるから半分死にますように」
「もう遅いし願い事3つじゃなくて3回唱えるんだよ馬鹿。しかもクソみてぇな願い事だな」
Aらしいといえば、Aらしい。
願い事を言って満足したらしいAが夜空を仰いだ。
「…………大好きだった、先生がいたんだ」
ぽつりと話し始めたAに俺は目を向けた。その顔は俺からは見えなかった。
白い煙が満点の星空をぼかす。
「その先生と、こうやって2人で星を眺めるのが好きだった。その時だけは、みんなの先生を、独り占め出来たんだ」
Aが、酔っても弱ってもないのに昔のことを話し出すのは珍しかった。
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作者名:フルーツパンチ侍 | 作成日時:2023年9月14日 12時