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桜の花びらが散るその場所で、少し崩れかけた浴衣姿で煙に巻かれながら俺に笑いかける艶姿のその女は、掴もうとしたら霧になって消えてしまいそうだった。
気づかれたのならこそこそとする必要はない。
俺はずんずんと足をすすめ、Aの方に歩いた。そして、その煙管を持つ手首を掴んだ。
しっかりと、その細い手首は俺にも掴めた。
煙の甘い匂いがする。
「毎回起きてくるな、悟は。ちゃんと寝かしつけたのにベビーベッドに置いたら泣き出す赤子みたいだな」
「赤ん坊と一緒にすんな」
ふっ、と笑うAは色っぽく、ちゃんと大人に見えた。
俺に手首を待たれたまま、Aは気にすることなく少し歩き、土手に腰掛けた。それにつられて俺も腰掛ける。
「旅行に行くと眠れないタチか?」
「……そうかもな」
眠れてない原因ほぼお前だけどな。
Aは俺の顔を見ない。あのクリスマスの夜もそうだった。
今は、目の前の花びらを散らす夜の桜ばかりを見ていた。
「だが眠らなかったら、体力が持たんぞ。昨日も寝れてないだろ。まさか、一晩中私のポロリでも待ってたのか??」
「はぁ?!興味ねぇわ!」
こいつは本当に人をおちょくらないと息ができないらしい。
くつくつと静かに肩を揺らすAの横顔をちらりと見た。
一瞬見ただけなのに、Aと目があった。その妖しい瞳から目が離せなくなる。
その目の奥に、昨日の夜の光景が浮かんだ。
傑が口づけを落としたそのふっくらとした唇。なんで、と出かかった息が肺の中に留まっていた。
「特別に私の膝、使わせてやってもいいぞ」
その言葉に返事を返す前に、俺はAの握っていた手首にバランスを奪われ、Aの膝の上に転んでいた。
「……お前の下乳しか見えねぇんだけど」
「なんだ、亀◯人みてぇに乳でぱふぱふご希望か?」
「馬鹿か!いらねぇよ!!」
その乳が目の前にあってAの顔も見えなかった。
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作者名:フルーツパンチ侍 | 作成日時:2023年9月14日 12時