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その日の夜も、俺は眠れなかった。
隣の傑を見てみれば、昨日とデジャヴな光景が見える。
何度も寝返りを打ち、最終的に天井を見つめるしかなかった。

すーっと襖が開く音がした。隣の、A達の部屋だ。
廊下に静かな足音が響く。Aがまたどこかに行くのだろうか。
俺も気づいたら起き上がって襖を開けていた。

廊下の角を曲がるAの背中が一瞬ちらりと見えた。
俺はその背中を何となく追ってきてしまっていた。
Aの背中を追ってたどり着いたのは夜の海。
さざ波の音が夜の空によく響いていた。

「なんだ、また後をつけてきたのか。なに、枕変わると寝れない感じ?」
「そんなんじゃねぇよ」

相変わらず俺の尾行はバレていた。
背中に目でもついてんのかよ。

「なにしてんだよ」
「特になにも。……この海を歩いて進んでいったら、帰れたりしねぇかな」
「……死ぬだけだろ」

Aは俺のことを振り返らない。
俺がここにいなかったら、本当に海に歩いていっていたんじゃないかと思わせるような声だった。

潮風にAの着ている浴衣がなびいている。

Aが着る浴衣はAにとても合っていた。
まるでずっとそれを着てきたかのように、自然だった。
元の世界、本来では、本当にそうだったんだろう。

「……そんなに元の場所に帰りたいのかよ」
「んー…………そうだな、残してきたモンが、まだ少し大きすぎるみたいだ」

厨二病になった悪友もまだシバいてねぇし、とAは目を細めて黒い海の地平線を見つめていた。

Aはおもむろにタバコを取り出し、ライターで火をつける。
Aがタバコを吸ってるところなんて初めて見た。

「タバコ、吸ってたのか」
「いや、硝子に一本だけもらった。……にしても不味いな。硝子に止めるようにお前らからも言っといてくれ」
「俺たちが言っても硝子は聞かねーよ」

タバコを吸い込んで、空に煙を吹き出した。
なにがいいんだか、というAの小さな呟きは波の音にさらわれていった。
沈黙だけがこの空間を流れていた。
気の利いた言葉一つ、俺には何も浮かばなかった。

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作者名:フルーツパンチ侍 | 作成日時:2023年9月2日 4時

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