どこにもいくな ページ32
五条先輩が泣かないから、泣いてるんです。
私が言うと、五条先輩が目を丸くした。
それからすぐに表情をぐにゃりと歪めて、「バカ」と言いながら私をそっと抱き締める。
五条先輩は泣かない。五条先輩は誰よりも強いから、人を助けることにしか慣れていない。他人に寄りかかって、悲しみを吐き出す方法を知らない。―――私がもっと強ければ、先輩を支えられるだけの力があれば…先輩は、泣けたかもしれないのに。
それが、どうしようもなく悔しくて。
私はまた、泣いている。
「ごめんなさい、私…もっと強くなりますから」
子供みたいに泣きながら、そう心に決めた日。
廊下には私と五条先輩の二人だけ。私たちは互いに寄り添いながら、しばらくの間黙りこくっていた。
「…宮井」
やがて、五条先輩が私の名前を呼ぶ。はい、と返事をすると、頭に五条先輩の手が乗せられた。そのままその固い胸に抱き寄せられ、五条先輩の穏やかな心臓の音が、耳に直接伝わってくる。
私を胸に抱き寄せたまま、五条先輩は言った。
「…お前は、どこにもいくなよ」
…ひどく小さな、掠れた声で告げられたそれは、きっと五条先輩の―――精一杯の泣き言だったのだろう。
「ずっと俺のそばにいろ。約束」
「…はい」
「約束破ったら呪うからな」
「五条先輩が言うと、シャレにならないですよ…」
約束します。そう言いながら小指を出すと、五条先輩も微笑みながら小指を出し、二人でそれを絡めて指切りをした。
「…よし!帰るか。それか、甘いもん食いに行こうぜ」
「私、アイスがいいです」
「じゃあ、この前んとこ行くか。『今ならトリプル無料!』の」
「はいっ」
五条先輩が差し出した手を掴み、私たちは手を繋いで歩き出す。二人並んで、今度こそ前を向いて。
苦しいことを忘れたわけじゃない。それらもすべて胸に抱えたまま―――少しでも強くなるために、前に進む。
…そうだ。私は、強くなりたい。ちょっとやそっとじゃ泣かないくらい強くなって、いつか五条先輩よりも強くなって―――五条先輩が疲れた時は、支えられるように。泣きたい時に、泣いてもらえるように。
呪術師を続ける理由は、それでいい。
ねえ、夏油先輩。
どんなに険しい道でも、きっと私―――五条先輩が一緒なら、大丈夫だと思います。
だから私はもう少し、この青春を手放しません。
それでは―――またいつか、どこかで。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時