記憶の中で ページ22
ひどく、目覚めのいい朝だった。
窓の外からは、小鳥のさえずり。カーテンの隙間から漏れ出す光によって意識が覚醒し、むくりと上半身を起こす。ベッドサイドに置いてある目覚まし時計を手に取ると、時刻は5時25分。こんなに朝早く目が覚めたのは、いつぶりだろうか。
ふいに視線をずらすと、ベッドに突っ伏すようにして眠っている人物。…五条先輩だ。呼吸とともに微かに上下する肩を叩くと、五条先輩は勢いよく顔を上げた。
「宮井…」
「おはようございます、五条先輩」
そう言って笑いかけると、五条先輩はふっと気の抜けたような顔になって、そらからすぐに自分の顔を片手で覆いながらため息をついた。重くて長いため息が終わると、五条先輩は私に尋ねる。
「何があったか、覚えてる?」
その質問に答えるには、ひどく時間がかかった。
ええと…と呟きながら、こうなる前の記憶を呼び覚ます。ええと、こうなる前…朝から任務に出ていて、新幹線で帰って来て…高専に着いた、ところまでの記憶はある。
「それから…五条先輩に会って…」
「うん」
「……スミマセン、あんまり覚えてないです…」
素直にそう頭を下げると、五条先輩がパックのジュースにストローをさした。それを私に手渡してから、自分の分を開ける。大人しくそれに口をつけていると、五条先輩が言った。
「お前…俺が戦ってたヤツに、殺されかけたんだよ」
その一言により、おぼろげながらも記憶がよみがえってきた。
高専の結界内に入ると、あったはずの建物がぼろぼろに崩れていて、地面も抉れていて。その中心に立っていた五条先輩が、私を見るなりひどく焦ったような顔をして。どこからともなく飛んできたたくさんの蝿頭の羽音と、それに混じって聞こえた―――声。「まずお前から殺してやるよ」という、楽しそうな声。それから―――腹部に走る激痛。
それらを思い出し、私は無意識のうちに自分の脇腹に手を伸ばした。
五条先輩の「痛むか?」と尋ねる声にふるふると首を振り、微笑んで見せる。
「五条先輩が、治してくれたんですよね」
「…そうだけど。あの時、意識あったのか?」
「分かんないですけど、何となく。頑張れ、死ぬな、っていう五条先輩の声が、ずっと夢の中で聞こえていた気がして…」
本当に、何となくですけど。
そう言って笑うと、五条先輩が少しだけ泣きそうな顔をした。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時