ただの人間 ページ17
『俺も、ちょうど宮井の声が聞きたいと思ってた』
先輩がそんなことを言うから、目の奥がじわりと熱くなる。普段は意地悪するくせに、こんな時ばっかり、そんなこと言って。まんまと泣いてしまうのが悔しくて乱暴に袖で目元を拭うと、五条先輩が吐息交じりの笑みをこぼす。
『あっれぇ、宮井サン、まーた泣いてんの?』
「な、泣いてません」
『悪かったな、映画行けなくて。帰ったら埋め合わせすっからさ、機嫌直せよ』
涙声で言う私に、五条先輩が慰めるような声色で言った。でも、その言葉は何だかズレていて。私はムッと眉間にしわを寄せながら、携帯を片手に悔しげな声を漏らした。
「…先輩は、分かってないです……」
『ん?なんて?』
「先輩は!分かってないです!!」
『うわっ』
私がいきなり声を荒げたせいで、五条先輩が電話の向こうで驚く声がした。
『どうしたんだよ。そんなにあの映画観たかったのか?』
「え…映画なんて、どうでもいいです。五条先輩と一緒なら、何だっていいです…」
ぎゅ、と携帯を握りしめながら告げる。ふと、電話ん向こうからかすかに波の音が聞こえた。その音が、いま私と先輩の間にある距離を色濃く表しているみたいで、どうにも落ち着かない。
「わ、わたし…最近おかしいです。五条先輩が隣にいないと落ち着かなくて、ちょっと離れただけで、泣きそうになったりして。五条先輩は強いから、今回も無事に帰ってくるんでしょうけど…」
本当はいつも、心配なんですよ。五条先輩がちゃんと、無事に帰ってくるかどうか。
頬に流れた涙を袖で拭い、ず、と鼻水をすする。これじゃ、ただ寂しくて八つ当たりしたみたいだ。そう少し反省して、とりあえず謝ろうと口を開く。けれど私が声を発するのよりも早く、五条先輩の声が耳に響いた。
『そんなの、初めて言われた』
先輩はやけに嬉しそうに、そんなことを言った。自分とは対照的な明るい声に戸惑うと、そのトーンのまま五条先輩が続ける。
『俺にそんなこと言うの、宮井ぐらいだよ。怪我しないか心配〜とか』
予想外に喜ばれてしまい、私は言葉に詰まってしまう。少し考えて、ようやく自分の言った言葉の意味に気づく。私、最強に何てことを…。
「す、スミマセン…別に五条先輩のことナメてるとか、そんなことは…」
『はぁ?別にいいよ。嬉しかったし』
「え…?」
『宮井にとって、俺って、ただの人間なんだな』
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時