●優しさを綴って。 ページ32
帰り際の時間、Aさんが何かメモのようなものを鏡花ちゃんに渡した。
僕はというと気が緩み始めて思わず出そうになる欠伸を噛み殺しながら戸締まりを確認していた。
鏡花ちゃんがメモを開くとカーディガンを羽織りながらAさんが控えめな声で「お節介かもしれませんが…」と呟いた。
「休憩がてら私が普段使っている手帳のメモを参考に鏡花さん用のメモを書いたんです。もしよかったらどうぞ」
その言葉を聞いて僕は頭の中にあの日の夜勤で見た革の手帳を思い浮かべる。
彼女の言い方に恩着せがましさはなく、それは多分Aさんがそういう人、っていうのもあるだろうけどこれを書くのを彼女自身も楽しんだのじゃなかろうかと思った。
僕も近寄って覗き込むとメモには達筆な字と簡易的なAさんが描いたのであろう挿し絵があった。
ここまでやってくれたのは単純な親切心の他にこれを書くことも勿論だけれど、僕のいなかった鏡花ちゃんとのあの時間が有意義に感じられたからのはずだ。
「見にくかったらごめんなさい」
彼女はそう言ったけれど僕が見た感じちっともそんなことはなかった。
即席みたいだけれど充分見易いし、Aさんの丁寧さが窺えるメモだ。
何となくAさんは絵が上手そうだなと想像していたけれど、想像に違わず簡易的な挿し絵でも多分、ちゃんと描いたら上手なのだろうと窺える絵だった。
メモを見て僕は思わず、いいなぁと呟いた。
二人の視線が集まる。
「実は僕も淹れる練習してるんですよね」
これはAさんには話してないことだ。
でも寮であの栗羊羮を食べる時、僕は紅茶を淹れるようにしていた。
といっても彼女の様に本格的ではなくティーパックを使ったものではあるんだけれど。
でも調べたらティーパックでも充分に美味しくする方法はあって少しずつ上達を目指している。
僕は何気なく言ったのだれけれどAさんの顔は少し驚いた顔だった。
初めて見る表情だと思いながらも僕はそういえばと栗羊羮について彼女に聞きたかったことがあったのを思い出した。
「あ、それであの栗羊羹、凄く美味しくてこの間食べきってしまったんですが何処で買えるんですか?」
訊ねると彼女はいつも通りおっとりとした眼差しに戻りながらえっと、と返答する。
「駅の近くの栢屋という所です」
「有難うございます、今度行ってみますね!」
すると彼女は「あ、でも待ってください」と声を上げた。
407人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柏(プロフ) - 蒼霧零夜さん» 初めまして、いつもありがとうございます!このような稚拙な作品ながら楽しんで頂けているようで非常に嬉しいです!後半に突入しましたので最後まで楽しんで頂けるように頑張ります! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
蒼霧零夜(プロフ) - 初めまして、蒼霧零夜です。何時も楽しくこの作品を読ませて頂いています。これからも、更新を楽しみに待っています! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1854068e39 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - あざる!さん» ご指摘くださりありがとうございます。私が操作している訳ではないのですが、更新するとそうなってしまうようです。今まで指摘もなくこちらとしましても特別不便なことはないので放っておいていました。正しい作成日時はこのページの一番下に記されております。 (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - 草神 桜月さん» 嬉しいです!イメージは日常なのであまり勢いづかないように書くよう心がけています。勿体無い程のコメントで非常恐縮です。ありがとうございます! (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
あざる! - いつも新着順に乗ってるんですけど、どうやってるんですか? (2019年7月6日 21時) (レス) id: bcf0550a7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柏 | 作成日時:2019年2月26日 17時