風味絶佳 (ページ26)

今日:5 hit、昨日:6 hit、合計:130,410 hit

06 ページ26

常連さん同士で会話に花を咲かせているところ、ふと聞こえた、洗剤、という単語で思い出す。

「ミニョンさん、シャンプーってまだ買ってきてないですよね？すっかり忘れてました、はは。」

「そうね、確かにまだもらってないね。今から行ってきてくれるの？」

ちょうどみりんと牛乳を切らしていたことに気づき、一緒に買ってきますと伝える。

寒さに耐えるべく、一枚、また一枚、と上着を羽織る私を横目に、一連の会話を不思議そうに聞いていたジフンさんにおじいちゃんが説明する。

「ここに来る皆んなは足が悪かったり腰が悪かったりするからなぁ。重い物とか大きいものはソラに買ってきてもらってるんだ、女の子だけど俺なんかよりは丈夫だから、ははっ。」

「ソラちゃん、ありがたいけど、もうすぐ吹雪くみたいだから、今はやめといたほうがいいんじゃない？」

ミニョンさんの忠告を聞いていれば良かった。

マートを出て、1人で持つには大分重たい荷物をどうにか両手に抱える。

生憎、自家用車なんてものは持っていないし、タクシーなんて勿体無いから使いたくない。ここは意地だ、女の意地。そうは思っても、目の前にはこれでもかと大活躍してくれる吹雪。

一歩、また一歩、としゃくしゃく、雪を踏みながらお店に帰ろうとする私に、ふと横に来た一台の車。
気にも留めず、またもう一歩、と進んでいると、

「おい」

聞き慣れた声に首を傾げると、ほんの少しだけ空いた窓からよく知っている細い目がふたつ、こちらを向いている。

「………ジフンさん？」

「おじいさんから、お前がこの吹雪の中出かけたって聞いて。お店まで送るから。」

お店以外で会ったことのないジフンさんが、何故私を迎えに来たのか分からず、ぼんやり、と立ち尽くす。

「とにかく送るから、早く乗って。」

がらん、と音を立てて開けられた車のドアから、ジフンさんの腕が伸びてくる。

私の両手を塞ぐビニール袋を奪うと、私の腕も奪って、後部座席、自分の横に座らせた。

特に何か、を話すわけでもなく。
運転をしてる男性、所謂ヒョン、に道の案内するジフンさんの声と、控えめにかけられたBGMが車内に響く。