猟犬の妹は命を救う仕事をしている。 弐 【文スト】

50 ページ10

［谷崎 潤一郎 × 与謝野 晶子］

金色の文字列を視界の端に捉えた2人は、鏡花と乱歩を転送させまいと走る。

鏡花の着物の袖だけでも掴めれば、、、！

だが、すんでのところで2人は消えてしまった。

文字列も消え、そこには谷崎と与謝野、そして銀髪の少女のみが残された。

そう、『稲荷姫』である。

『稲荷姫』がゆっくりと振り向く。

幻想的で異様な容姿も相まって、まるで女神か何かのように見えてしまう。

仲間2人が目の前で消えてしまったという衝撃、目の前に『稲荷姫』がいるという事実、自分たちも転送されるかもしれないという恐怖。

そのどれもが、谷崎の肩に重くのしかかる。

今ここで谷崎と与謝野までもが転送される訳にはいかない。

緊張で動けない谷崎の代わりに、与謝野が口を開く。

与「あんた、たしか『稲荷姫』って言ったっけね。
2人をどこへやったんだい？」

『稲荷姫』は無感情な瞳で与謝野を見つめ、淡々と答える。

もちろん口元には例の完璧な笑顔付きだ。

李「人喰い鬼がうじゃうじゃいる、危ない世界。
もしかすると2人とも死ぬかもね」

与謝野も谷崎も息を飲む。

その様子を眺めながら、左手に持ったメモ帳を開く。

掌サイズのメモ帳には、色鉛筆でかなり上手い絵が描かれていた。

そして驚くべきは、アニメやドラマのように、色鉛筆で描かれた絵が動いている点だ。

中に閉じ込められた人の動きを、そのまま観ることが出来るらしい。

何とも便利な異能だ。

瑛藍が描いた人喰い鬼はすでに滅び、木が鬱蒼と茂った森の中で、鏡花、乱歩、宇髄が喋っている。

李「あれ？
なーんだ、助かっちゃったのか。
つまんないなぁ」

瑛藍がメモ帳に描いたのは、人喰い鬼の住む山奥の絵。

そこに宇髄が現れ、鏡花と乱歩を救ったのは全くの偶然であり、瑛藍の意図したことではない。

つまり、絵の中の世界をコントロールすることは不可能、ということだ。

瑛藍の「なーんだ、助かっちゃったのか」という台詞に徐々に怒りが湧き上がってくる谷崎。

いくらヘタレでも、仲間を蔑視されて黙っていられる訳がない。

潤「おい、『稲荷姫』。
今すぐ鏡花ちゃんと乱歩さんを出せ」

殺気を滲ませる谷崎を、面白そうに眺める瑛藍。

李「なーんだ、良い顔出来るじゃん。
女性に守られてばっかりで自分では何も出来ないお坊ちゃんなのかと思った」

与謝野の眉がぴくりと動く。

2人とも、ペースの掴めない瑛藍を相手に、相当苛ついているのだ。

51→←リクエスト受け付けてます

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す