【東方定助】からっぽの埋め合わせ (ページ2)

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○1　プロローグページ2

side:you

「東方、定助…。」

少し前に、「壁の目」の隆起物付近に埋もれていた謎の少年。
彼は、自分の住んでいた場所どころか、名前すら覚えていなかった。所謂、記憶喪失っていうものだった。幸い、といっていいのかは分からないけれど、無くなった自分に関する記憶だけ。
生活していく上での、必要最低限のジョウシキみたいなものは覚えていた。
そして、私がさっき呟いたのは彼の名前。

『東方定助』

それが、彼の仮の名前。彼を引き取った東方家で与えられた名前らしい。本名は、まだよくわからないけれど。

そして、私の名前はみょうじA。
なんでこんなにも沢山、東方定助について知っているのかというと、友達のヤスホちゃんから教えてもらったから。
現在分かっているだけの、定助についての情報を聞いて、少し彼に興味をもった。
だから、私はヤスホちゃんについていって定助に会ってきた。

一言で言うのは勿体ない程に、彼は魅力的だった、とても。

少し不思議な瞳をしているし、空きっ歯で何を考えているのか読めない、素性も本人でさえ分からない。
そんな全身が「謎」で作られた様な人だったけど、逆にそこに惹かれた。何より顔が可愛いかった。

私は、もっと彼のことを知りたくなった。
彼の事を知りたいから、彼の周りによくついていってるのだけれど、私の方を彼が振り向く度に、胸が高まった。

彼がヤスホちゃんの名前を呼んで、嬉しそうに近寄っていくたびに、胸が何かおぞましいもので鷲掴みされたような感覚がした。

そういう体験をしながら、私は「これが恋だなぁ。」と思った。

私の初恋は、何もかもが謎の、記憶もからっぽな人だった。

彼が彼自身を知りたい様に、私も彼自身を知りたい。
そして、出来ることなら振り向かせたい。

この物語は、好いた人を振り向かせる奮闘を描いた、ただそれだけの物語。