魔王愛を捨てた復讐鬼 (ページ4)

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第四話ページ4

しおりは昼間に成瀬に会ったあと、街をただ歩いていた。強かった日差しもいつしか弱くなり、気がついたら自分の足がガランサスへ向いていた。一日中歩き潰したサンダルは薄汚れて、つま先の当たりがぼろぼろになっている。

成瀬さんを止めるにはどうしたらよいのだろう。

身体が勝手に動いていた。思わず成瀬さんの背中に抱きついていた。成瀬さんの身体は痩せていて、今にも消えてしまいそうだった。

ワイシャツの柔軟剤の香りも、成瀬さんの優しい香りも、感じれば感じるほど成瀬さんにもう二度と会えなくなるんじゃないかという不安に変わってゆく。そんなの嫌だ。成瀬さんとずっと一緒にいたい。成瀬さんに生きていてほしい。今度こそ、成瀬さんに幸せになってほしい。成瀬さんの素敵な笑顔をもう一度見たい。

彼の人生を思えば、悲しくて涙が溢れてくる。誰よりも優しく、弟とお母さん思いで働き者だった友雄さん。あの日、あの雨の日に出会ったときも優しい目をしていた。

夏夜の生暖かい風が吹いた。
その暖かさがしおりの心を包み込むようだった。抑えていた涙も自然と零れた。

成瀬さんは、名前も過去も捨てたと言っていた。
どれだけ辛かっただろうか。自分の名前も過去も手放してしまえば、すがるものもない。寂しさも憎しみも、すべてひとりで抱え込んで生きてきたのか。ずっとひとりぼっちで生きてきたのだろうか。ひとりきりで部屋に籠もり、ただ芹沢家を恨む成瀬さんを想像する。図書館で彼が白百合に残した残像が頭をよぎった。

そんな悲しい人生があっていいわけない。成瀬さんは愛されるべき人なんだ。

しおりは成瀬の笑顔を思い出した。普段は自分を隠していて、微笑むことはあってもいつも表情は硬かった。でもたまに、顔をくしゃっとさせて笑うことがあった。笑顔がきらきらして見えた。花火大会の日、一緒に花火をしたあの日の成瀬さんの笑顔は純粋無垢な少年のようだった。こころだけは少年のまま時が止まったようだった。

きっとあれが、成瀬さんが捨てきれなかった友雄さんだ。ほんとはすごく優しくて素敵な人なのにそれを心の奥に隠して蓋をしている。

成瀬さんにもう一度笑ってほしい。
絶望や悲しみじゃなくて、幸せや喜びを感じて生きてほしい。
成瀬さんに幸せになってほしい。
あの笑顔をもう一度見たい。

成瀬さんの笑顔があれば、どんなことも乗り越えられる気がした。

しおりは成瀬を止められなかった自分の無力さを恨んだ。