魔王愛を捨てた復讐鬼 (ページ1)

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第一話ページ1

2008年9月12日夜。
成瀬領は山野に呼出されて、いつものベンチまで足を運んだ。

用件は携帯が鳴った時点でなんとなく察していた。先に待ち合わせ場所にいた山野の殺気立つ顔を見ても、それは明らかだった。周囲の街灯が山野の眼鏡に反射して、なおさら不気味さを増長させていた。

「どうして葛西を釈放したんです！」
山野が捲し立てた。
成瀬は、比較的穏やかな口調を保って言った。

「彼はもう、充分苦しみました。」

「まだ充分じゃない！あいつも僕をいじめていたうちの1人なんですよ？」

その一言を聞いた瞬間、成瀬はああ、やっぱりと思った。山野は英雄の復讐をするうちに、自分をいじめていたことに対する復讐へと目的をすり替えている。きっと、無意識に。

少し悲しかった。

もう誰も傷つけたくなくて、なんとか心を継げて最期を迎えようとしているのに、彼はまだ誰かを傷つけようとしている。

もう、やめてほしいんだ。
もう、終わりにしたいんだ。

成瀬は、静かに切り出した。山野を落ち着かせなければならない。

「あなたは、誰のために復讐しているんですか」
「もちろん、英雄です」
「だったら…」
「もういい！！」

突然山野が大きな声を出した。

「もう、あなたには頼ならない」

そう言って山野はジャケットの内ポケットからナイフを取り出した。

「僕が、この手で…仕留めます」

成瀬は驚いた。まさか、そこまで準備してきているとは思わなかった。

いや、かつての自分だったらその程度の察しはついていた。気づかなかったのは、自分がそれだけ人を信じるようになってきているからだ。

「何を、するつもりですか」
「うるさい！」

そのまま走り去ろうとする山野を成瀬は必死に止めた。

「やめてください！」

山野がはっと成瀬の顔を見る。

「そんなことをしたら、英雄があなたを止めた意味がなくなる」

山野の脳裏に過去の記憶が蘇った。

いじめてくる奴らを殺してやろうと思って、学校にナイフを持ち込んだあの日。英雄も、屋上のフェンス越しに奴らを睨む山野を必死に止めてくれた。

『そんなもん、どうすんだよ』
『あんな奴らのために、ダメになるお前なんか見たくない！』

そして、あの日英雄は山野から預かったナイフで殺された。

自分のせいだ。

「バカなことはやめてください」
成瀬が静かに言った。

バカなこと？
ふざけるな。バカなことだと？
英雄の復讐をバカなことだというのか。
お前は英雄の兄なのに
お前がこの復讐を計画したんだろ