象 ページ19
私がちゃんと視たことで満足したのか、手首は溶けるように消えた。
あれがいったい誰の手だったのか。
いくら考えても思い出すことはできない。
今までは私についてこようとして足を掴んでいたのだろうが、何故、私に。
思い当たる節なんてものは全くないのだが、ただ一つ確信していることがある。
「彼女は吉良吉影に殺された」
手首だけだからそうだっていう思い込みかもしれない。
ただのこじつけなのかもしれない。
でも、確かなのだ。
「彼女」はそう言っていた。
スケッチブックに鉛筆を走らせ、彼女の手を描き出す。
紙を継ぎ足し、無意識に動く手から全体像が出来上がっていく。
知らない。
知らない女の人。
なのに、どうして。
どうして、涙が溢れるのだろう。
どうして、こんなにも懐かしい気持ちになるのだろう。
嗚咽が漏れる。
障子を勢いよく開けて承太郎が部屋に飛び込んできた。
「････････････」
チラリと私の絵を見た後、承太郎は何も言わずに私を抱きしめる。
その温かさに、私はわけもわからず泣いた。
わかっていなくても、何か大切な存在を失ってしまったような･･････そんな実感だけが胸に渦巻いている。
その正体に気付けないまま、私は承太郎の腕の中で眠りについた。
そして、目を覚ました後、もう二度と会えないであろう彼女を思い、また少し泣いた。
あんなに怖いと思っていたのに、もう一度あの手に会いたいと願うのは何故なのか。
しかし、それ以降躓くことはなく、穏やかに、平凡に日々は流れていくのだった。
目の覚めるような青いキャンパスに、絵に描いたような荒い雲が鎮座している。
日が肌を刺し、汗が頬を伝う。
蝉の声。
涼やかな風鈴の音。
夏を越えられなかった貴方に、私は今日も思いを馳せた。
「祭、明日だな」
「うん。何着ていこうか」
どんな記憶も、いつかは忘れてしまう。
それは私に限った話ではない。
承太郎も、典明も、いつかは全てを手放す日が来る。
だから私は、今覚えていられるこの一瞬をただ慈しみ、心にしまっておきたい。
「決めてないなら浴衣にしろ。せっかくの祭だしな」
「じゃあ承太郎も浴衣ね。典明も浴衣着てくれないかなー･･････」
「何故今花京院の話が出る」
縁側に腰掛け、足をふらつかせる私と、胡座をかく承太郎。
少し拗ねた様子を愛おしく思いつつ、私は承太郎にもたれ掛かった。
「他の男の話はするなってこと？」
「わかってんじゃねぇか」
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アーディ(プロフ) - くろねこ1227さん» まだ夢主ちゃんもふわっふわな時期でしたからねぇ……2人のすれ違いコントは結構楽しく書いてました。お気に召したなら何よりです！ (1月4日 1時) (
レス) @page15 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
くろねこ1227(プロフ) - 承太郎を心から頼りにしてる夢主ちゃんのノートのなんやかんやにフフッてなった。ガッツポーズする承太郎可愛いな！２人の固い絆を感じるとても好きなシーンです。 (1月4日 0時) (レス) @page9 id: 929310bb43 (このIDを非表示/違反報告)
奇妙な前髪(アーディ)(プロフ) - アオイさん» 一気ですか！読破お疲れ様です！途中でかなり路線変更したので違和感がなかったと言っていただけてありがたい限りです･･･！またしばらく間は開きそうですが、完全停止だけはしないつもりです。応援ありがとうございます。頑張りますね！ (2018年6月21日 6時) (レス) id: 48ec130d60 (このIDを非表示/違反報告)
アオイ - 一から一気に読みました！物語が違和感なく進んでいることや全員生存ルートが無理な形で入っていないところが素晴らしいと思います。ゆっくりで良いので更新頑張ってください!応援しています。 (2018年6月20日 16時) (レス) id: faa73ce9b0 (このIDを非表示/違反報告)
奇妙な前髪(アーディ)(プロフ) - まさか、その、えっと･･････そんな方がいらっしゃるとは思ってなくて･････たまに更新はしますね。頑張ります。ありがとうございます･････ (2018年4月29日 11時) (レス) id: 48ec130d60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：奇妙な前髪 | 作成日時：2018年2月20日 20時
