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お互い石の上で横になる。
仕切りがあるから、顔は見えない。
隣にいると思うと、不思議な感覚に包まれる。
暗い照明とBGMに癒されながら、少しだけ眠りに落ちた。
数十分経って気になり上体を起こしてみると、彼はまだ寝たまま。こうして誰の目にも触れられず、気を落ち着かせる事が少ないんだろうな。
とはいえ、脱水症状になりかねないので、申し訳なく起こす事にした。
蒸し暑かった室内を出て、水分を補給する。
蒸気と発汗で頭から足先までびっしょり。
タオルで髪と顔を拭う。
全身ずぶ濡れ状態になった彼を見て話した。
「MV、良かったです」
ぱあっと顔が明るくなるグク。
「ありがとうございます」
あの日実は寒くて、と撮影風景を語り始める。
楽しそうに話す姿をみて胸が苦しくなった。
グクにとって私は何だろう?
最初は恩返しから始まったけれど。
今となっては、なぜこうして一緒にいるのかわからない。
それを望んでいるのは私であって。
こんなに幸せな事はないと噛み締めているけど。
つい相手も同じ気持ちであってほしいと願ってしまう。
グクは、私がどう想っているか気にならないのかな?
「ARMYのおかげです、ARMYがいなかったら僕はきっとここにいない。」
そう。
彼を応援するファンがいるから、世界のBTS、ジョングクなんだ。
汚れた独占欲はそれを奪ってしまう。
苦しい。
こんなに苦しいなら、いっそのこと。
「グク、本当にすごいよ、ステージもダンスも歌も、何もかもかっこよくて素敵だった」
「ふふ、ありがとうございます」
「これからも、もっと上を目指して頑張ってください。ずっと応援してます。だから」
今まで色々な事をたくさん話した。
一緒にご飯を食べる時も、移動の時も。
ふざけながら、お互いの合図みたいなものも決めた。
もう良い友達、良い人でいられない。
「大丈夫。今までありがとう、」
"さよなら"
言葉で言えない代わりにジェスチャーで伝えた。
「そろそろ出るね、シャワー浴びたら待合室で待ってるから」
どんな表情をしていたのかは見てない。
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作者名:あぽ | 作成日時:2023年7月7日 8時