優しい世界［3］ (ページ38)

今日:23 hit、昨日:29 hit、合計:277,346 hit

・ページ38

Yugo side

「ごめん、ごめんな。樹、」

泣きそうに震える肩をさすりながら謝る。

「ちぁう…(違う)
おぇ、くやひくて、(俺、悔しくて)…」

ぽつぽつと樹が話し始める。

「へんぱいの、いってることも、わぁんなくて…(先輩の言ってることも分かんなくて)
ぇも、ばかにされぇるのは、つたわっぇくぅし…(でも馬鹿にされてるのは、伝わってくるし)」

馬鹿にされてる、というのはきっと喋り方のことなのだろう。

発話の訓練も樹は相当頑張って、聞こうとすれば問題なく聞き取ることが出来るけど、まぁ完璧とまでは行かなくて。

「耳のことで、からかわれた？」

耳を指差しながらそう聞くと、

「そうだけど、そうじゃない、」

曖昧な返事。

「先に、はぁしかけたのは、おぇ。(先に話しかけたのは俺)
くぁすのじょひが、へんぱいに、かぁまれてて(クラスの女子が先輩に絡まれてて)
いやほうだったかぁ…(嫌そうだったから)」

「それを樹が見つけて、止めに入った、ってこと？」

「ん。ぇも結局、あいえのいっれること、分ぁんなくて、わぁわれて、くやひくて…(でも結局、相手の言ってること分かんなくて、笑われて、悔しくて…)」

「殴っちゃった？」

「うん、」

そう答えた樹の目には、もう涙がいっぱいで、今にも溢れ落ちそう。

耳のことで人に言われることはこれまでも沢山あって、苦しんでる所も見てきたけれど、今回は人を助けたかったのに、上手くいかなかったことも重なって余計に感情的になってしまったんだろう。

涙でいっぱいの瞳で唇を読むのもしんどいだろうし、俺も樹の隣に腰掛けて抱きしめた。

ちっちゃい頃にしていたみたいに。

素直に背中を丸めて俺の中に入ってくる樹は昔と変わらない弟だった。

中学生になったって、可愛い可愛い弟のまま。

溢れ出たように泣きじゃくる背中を優しく叩き続けた。