優しい世界［3］ (ページ37)

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Yugo side

遅れて家に入れば、リビングのソファーの端っこでちっちゃく丸まっていた。

「じゅり、樹？」

折り畳んだ足に顔を埋めてる樹の肩を叩きながら呼びかける。

「ちゃんと話、しよ？」

正面からゆっくりはっきり話せば、大体の話は音と唇の動きで理解してくれる。

「…」

明らかに聞いてるのに目を逸らして返答なし。
いわゆる無視ってやつ。

「樹、何かなきゃ、こんな怪我、作らないでしょ？」

保健室で貼ってもらったのであろう口元の絆創膏を指しながら聞く。

「おぇはわぅくねえし！(俺は悪くねえし)」

わざわざ迎えにまで来させられて反省の色がなかった上に、キレ気味で叫んできた樹に、自分の中にもイライラが徐々に溜まって行く。

「でも、おまえから、手、出したんだろ？」

黙って頷いた樹に問いかける。

「じゃあ、何が、あったんだよ。
普通に、考えたら、先に、手出したやつの方が、悪いって、思われるぜ？それは、樹も分かってるだろ？」

「れも！おぇは、わぅくない！(でも！俺は悪くない)」

「その理由を、聞いてるの。」

「……うぅはい(うるさい)」

黙り込んだかと思えば「うるさい」と一言浴びせられ、俺の我慢の限界も超えてしまった。

「は！？さっきから自分は悪くないってそればっか。学校に保護者呼び出されるほど問題起こしたんだから、ちゃんと説明しろよ！
そもそも相手にも自分と同じくらい怪我させたみたいだし責任皆無なんてねえし！……

「あぁあああ！！にぃひゃんまで！(兄ちゃんまで)
そぉやっへひゃべられたら、もうおぇ、分ぁんねえひ！(そうやって喋られたら、もう俺分かんねえし)」

怒りに任せて喋りまくった俺を遮るようにしてそう叫ぶ樹。

その様子はさっきまでと違い、弱々しい叫びだった。

やってしまった、とそう感じた。
いくら正面から喋っていたってこんな早口で樹が理解出来る訳がない。

そんなこと分かりきってることなのに、俺はそうしたんだ。

その行為はさっきまでの樹の言動に対する怒りで許されることじゃない、残酷な行為だと思うから、咄嗟に酷く後悔した。