HEART*BREAK ページ35
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昔聞いたことがある。
いつ、誰に聞いたのかはもう覚えていないけれども
人を忘れるとき、最初にその人の持つ声を忘れてしまうそうだ。
声を忘れ、次第に顔をも思い出せなくなり、
そうしてその人の存在を忘れてしまうそうだ。
……いや、存在というのは大袈裟かもしれない。
しかし実際にそうらしいのだ。
いつ聞いたかも曖昧な話、信憑性のない話。
けれども僕は、その話は本当だったのだと身をもって痛いほど感じた。
自らの生徒の死をもって。
「……僕は駄目な先生だね」
もう君の声を思い出せないんだ。
元々君は奪声症を患っていたけれども、それでも僕は薄情な男だね。
君を殺してしまったのは僕なんだ。
君の、心の奥底にしまい込んでいた恋心は僕に向けられていたもので
その君の深く、重い想いに僕は気付いていたのに。
君のその気持ちと向き合うことで生徒と教師という関係が崩れてしまうのは防ぐべきだと思ったから。
僕にとっても、君にとっても。
「君が亡くなってもう三ヶ月が経ったよ。
来月には春休みに入るんだ、君の同級生は君をおいて進んでいくんだよ。
それは、僕も例外じゃないけど」
待っていてあげられなくてごめんね、と呟く。
違うんだ。
待っていてあげられないわけじゃない。
僕達が待っていてあげるものではないんだから。
自ら望んでその生を終えたのは君だから、
僕が君を待つ義務なんてないし、意味もないんだ。
分かっているんだよ、そんなことは。
それでも、縋りたくなってしまうんだ。
君を待っているという口実で、君を理解しているよと思っていたいだけなんだ。
君が悪いだなんて思っちゃいないさ。
けれどね、そうでもしないと僕も君と同じ路を辿ることになりそうなんだ。
ようやく分かったんだ。
君が、原因不明の奪声症を発症させた原因が。
「――……気付いてあげられなくて、ごめんね」
気持ちは言葉にしなければ伝わらないとはよく言うものだけれど
伝えたくない言葉が口をついて出そうになるなら、その言葉を気持ちごと押さえ込むしか術はない。
ねえ、だからこそ君は
その想いごと消し去る為に身を投げたんでしょう?
ごめんね。
ごめんね。
そんなに熱い想いを向けてくれたのに、僕は
「……じゃあね」
君の後を追うことが、出来ないんだ。
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ゆーき - エッ智春さん!?戻ってきてたんですか!?!?うわああああめっちゃ嬉しいです!(;_;)そして大好きな作者さんばかりなので毎回楽しく見させていただいてます◎これからも応援してます (2016年3月23日 18時) (レス) id: 675204a53d (このIDを非表示/違反報告)
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