しろひつじ ページ30
その意識は辛うじてまだ呼吸しているのだろう。
伽羅のようには沈まない。
「美味しそうなの売ってた。飲むか？」
「ありがとう」
ふたり、ベンチに座る。
手の中のボトルに視線を落とす君の顔はすこし寂しげに見えた。
「どうした？」
「いや？なんでもないよ」
「君の『なんでもない』には何かあるんだな」
「……今日は親友が転校しちゃった日だから」
天国の学校に。
「ごめんね。折角久し振りに出掛けられたのに」
「大丈夫だから、話したければ話して」
「寂しくて忘れられなくて遂に呆れられて、劣等生だった。教室で、なんとなく底辺で」
空調の音が大きくなった気がした。
「思い出した。透明な青の中で溺れれば、−89℃で凍れば、保証された沈没船に乗れたらって思ってたときがあったって」
「それでも、生きてるんだよな。どうしようもなく」
「そう」
僕らの、青春沈没船。
朽ち果てているだろうか。
もうヒトのことなど忘れているだろうか。
それでも、消えていないはずだ。
あくまでも仮定の話。
学生服も写真も名札も、全て緩やかな癖に残酷な時間の濁流に呑まれても、あの地点にいた事実は消えない。
消しゴムで擦ってみたって、修正テープ引っ張ったって、どうしても。
ましてや僕らは、消したくないんだ。
アルバムに交換した、互いのメッセージ。
書きたてのインキはふとした拍子に滲んでしまいそうではらはらした。
たとえばあの頃が未熟すぎて乾ききらなかった言葉たちがもし掠れてしまったとしたとしても。
それでも、息絶えなかった言葉の端くれで、何より直接交わした言葉と視線と、信じられないくらい軽かったり痛いくらい重かったりする想いで、伝わる筈だ。
後悔があるなら、見つめてみようか。
もう二度と経験しないために、走ってみようか。
言葉になったのは想いの羅列のひとかけらで、本当に伝えたかったことではないような気もする。
でも君は頷いた。
「写真、撮っとくか？劣等生卒業記念」
「その後プリンたべよう」
「おっいいね」
さあ、深海から沈没船を引き上げろ。
＊
こんにちは。しろひつじといいます。
私は「沈青」という字を当てはめました。
題名から沈んでいるのに蓋を開けてみれば思いきり浮いている気がしてなりません。大丈夫か。
素晴らしい企画に参加できてとても嬉しいです光栄です。
ありがとうございました！
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ゆーき - エッ智春さん！？戻ってきてたんですか！？！？うわああああめっちゃ嬉しいです！(；_；)そして大好きな作者さんばかりなので毎回楽しく見させていただいてます◎これからも応援してます (2016年3月23日 18時) (
レス) id: 675204a53d (このIDを非表示/違反報告)
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