拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ29)

今日:7 hit、昨日:15 hit、合計:11,704 hit

青春沈没船ページ29

青は重く沈んでいく。

僕が青と定義したものは、このところ狂気を表に出さず僕の視界から消えていく。

そろそろ少しの兆しくらい用意してくれないと、情けないけど忘れてしまいそうだ。

都合の良い生き物である以上それは仕方ないことだと笑った君の顔が、立ち込めて霧散する。

いつだったか、けけさん、と呼ばれた声と共に。

「水族館なんて久しぶりだ」
「小学校の遠足以来？」

アクアリウム、態とらしく飛び込んだ青の包囲網。

これが静かに消えていったらホラーだと、それこそ狂気を纏っていそうなことを思う。

もしも実際にそうなったとしたら、今現在その中にいる僕らはどうなるのだろう。

一緒に、音も無く抹殺されるのか。それとも時空の歪みにでも落ちるのか。

そんな超がつくほど非現実的なことをうだうだと考えていられるのは、狭苦しくて穏やかな個人的半閉鎖空間がとても平和であることを無自覚に証明しているからだと思う。

「かな。遠足って言葉自体が頭の中でしにかけてた。たぶん」
「なんか縁起悪そうなこと言うなって」
「じゃあ、化石になりそうになってた」

小さく頷いて、手を引いてみる。
空色と黄色のミサンガに僕の中指が触れた。

君は、手を繋ぐよりも手首を引かれる方が好きだ、といっていた。

「ペンギンって、どこにすんでるんだったっけ。北極？」
「違う違う違う。ペンギンがいるのは、南極」
「あ、すみませんでしたー」

ペンギンを地球の端から端へと大移動させようとする彼女を止めて、笑う。

ちょこちょこと星抜きポラリスを目指して歩く彼らの姿を想像してみたら、ほんの短い時間だけ、頭の中がふわりとした。

目の前には、孤独に空を見上げるペンギン。

彼らの住処の氷には、百万年前の空気が閉じこめられている、らしい。

いつだったかな。誰かに聞いた。

「ここでクイズ。南極の最低気温は？」
「そうだなー、気温計壊れて測定できないレベル」
「さては科学を舐めてるな。正解は、およそ－89℃でした」
「科学ちゃんあなたは私の知らない間にこんなにも偉大になってたのね感無量だわ」
「いやそこで急にぼけ進行させるのやめなよ」

馬鹿みたいにふざけながら、つられるみたいに見上げた空は限り無く綺麗だった。
美しい天使が淡い水色の絵の具を薄く、丁寧に塗り広げたのだろうか。

それはきっと幸せの創造主になれるし、はたまた生きる気力を吸い取っていくこともある。

自分勝手なんだ、僕らが。