拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ18)

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☆ ページ18

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「――……」

吹き抜ける風を一身に受けて目を閉じる。
風に揺られて木々が揺れる音が耳をくすぐった。

６時限目の授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。

数分遅れてざわざわと騒がしくなった下には、部活に向かう生徒や帰宅する生徒が確認できた。

５時限目の古典の授業を受けた後、
どうにも涙が止まらなくなってしまいそうで、友人の彼女に保健室に行くと伝えて教室を抜け出した。

保健室には行っていない。
元から行く気など更々なかった。

フェンスに背中を預けて見る地面はやけに離れていて、
つくづく私は馬鹿だなあと思ってしまう。

恋心は殺せなかった。

どれだけ殺しても、何度も何度も息を吹き返して、私に言葉を吐き出させようとするのだ。

伝えたくないから封じ込めた言葉を、何度も。

「Aさん、こんなところで何してるの？」

不意に背後から扉を開ける音がした。
同じタイミングで忘れていた声も。

けれどその声が耳に響くと、途端に苦しくなってしまうんだ。
伝えたくない想いが暴れ出して、発声方法を忘れてしまったにも関わらず声が出そうになるんだ。

穢れた想いなんて吐き出したくない。

ゆっくりと振り向く。
息を切らした伊東先生の姿が目に映った。

肩を上下に揺らして、息を吸って、吐いて。
走ってまで探してくれていたんですね。

やっぱり貴方は優しい先生だ。

けれどその優しさは、時に人をも殺めてしまうって知っていました？

私は貴方に殺められたわけじゃないし、
勝手に自分を追い詰めただけだけれど、きっと私以外にも貴方を私と同じ想いで見ている人はいるんじゃないかな。

単に私が臆病なだけで、伝えられないだけなのかもしれないけれど。

「屋上は立ち入り禁止だよ」

知っていますよ。
けれど、一ヶ月に一度、定期的に点検をするという名目で開放されているのも知っている。

屋上が立ち入り禁止になったのはもう随分前のことだと聞いた。
もうずっと昔、屋上から投身を図(はか)った生徒がいたそうだ。

結局それは未遂となったそうだけれど。

「危ないだろう、戻っておいで」

先生の言葉に従えなくてごめんなさい。

私は貴方にとって、きっと可愛くもない生徒だっただろう。
そんな生徒でも、貴方は心配してくれるんだ。

最後に聞けたのが貴方の声で、良かった。

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