拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ17)

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☆ ページ17

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「ここで二重敬語が使われているので、これは誰への敬意になるかというと――」

昨晩は必死に塞き止めていた想いが危うく溢れそうになって、
自分の器から溢れ出さないようにと何度も何度も心を殺した。

恋だと自覚したのは奪声症を発症する一ヶ月ほど前のことだった。

それまでは確かに憧れで、優しい先生だとしか思っていなかったはずなのだ。

それなのに、一体どこで間違えたのか。

ブレーキを踏むところで誤ってアクセルを踏んでしまったみたいに、
踏み留まるはずだった、踏み留まらなければならなかった境界線を呆気なく越してしまった私の行き過ぎた憧れは恋へと変わってしまった。

好きだ、と自覚してから二週間ほど経った頃、
私は自分に独占よくなるものがあることにも気付いてしまった。

そこからは早かった。
決して伝わらないようにと必死で、自覚した恋を殺そうとして、
いっそ声など出なければ、と願い続けていた結果が奪声症だったのだ。

病院の先生は言う。
奪声症を発症する原因は定まっていないと。

それは大きな間違いだ。

分かっているのだ、発症した本人は。
自分がどうして発症させたかなど、最初から自覚しているのだ。

けれどそれを他人に打ち明けてしまっては、
今まで伝えまいとしてきた自分の苦労が水の泡になることを知っているのだ。

だから言わない。言えない。
自分の中で殺した言葉を、生き返らせないためにも。

奪声症なんて病気は、治療法がないのではなく、
本人が治させまいとするから治らないだけなのだ。

そこで治してしまっては、意味がないのだから。

黒板の文字がじわりと滲む。
いけない、と制服の袖で涙を拭ったと同時に、授業終了を知らせるチャイムが鳴る。

「はい、じゃあ今日の授業はここまで。
復習はきちんとしておくんだよ」

伊東先生からの言葉を待ってから、クラス代表の号令に合わせて頭を下げる。
ぽた、と一滴、涙がノートに染みを作った。

教室から出ていく伊東先生を、格好いいとクラスの数名の女子がひそひそと話すのを横目に

『すき』

と、たった二文字を薄く、雑に書いてノートを閉じた。

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