拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ15)

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☆ ページ15

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「じゃあ、私部活行くけど……何か、その、昼休みはごめん」

放課後になり、彼女は昼休みに教えたことが相当衝撃的だったのか、
昼休みからあまり元気がなく、事ある毎に申し訳なさそうに私に謝罪の言葉を告げてきた。

気にしてない、という意味を込めて首を振ってから笑って見せると、また明日ね、と部活へと向かう。

彼女は要領がよく、決して鈍いわけではなく、寧ろ聡い方だ。

私があまり気にしていないこともあって、彼女の目には軽く映ったのかもしれないが、
それでも今の今まで触れてこなかったということは、彼女も頭では分かってはいたのだろう。

私が重く見ていないだけで、世間一般から見れば奪声症は決して軽い病気ではないということを。

それでも聞いてきたということは、彼女も少なからず興味はあったのだと思う。

「……」

教室には私以外誰もいない。
試しに声を出せるだろうかと口を開けてみるも、発声方法を忘れてしまったために何も出ない。

……忘れた、というのもおかしなことだ。
発症する直前まで当たり前のように声が出ていたのに、急に忘れてしまうのだ。

その声に関する記憶だけ、切り取られたように。

だからだろうか。
一年前のことだからということもあるだろうが、私は自分の声はとうに忘れてしまった。

自分だけじゃない。
他人の声に関する記憶も曖昧なのだ。

今の今まで聞いていた彼女の声も、もうあまり覚えてはいない。
それでも話し掛けられれば記憶の底から引きずり出されたように思い出すから、何とも不思議な感覚がする。

奪声症。
声を奪われる病気。
発声方法を忘れてしまう病気。

どちらかと言えば奪声症は、声に関する記憶だけを綺麗に、それこそ跡形もなく忘れてしまう病気なのだと思う。

私の周りに、私以外に奪声症を患っている人などいないから、
声に関して忘れてしまうのは私だけなのかもしれないけれど。

「……、」
「まだ残ってるの？」
「……」

誰もいないはずの教室に、忘れていた声が響く。
朝ぶりに聞いた、記憶の棚から引き出された声の持ち主の方にゆっくりと顔を向けた。

「帰らないの？」
「――……」

帰りますよ、と声を出そうとして、やっぱり出ない。
言葉を紡ごうとして開いた口を閉じて、代わりに一度頭を下げた。

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