拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ14)

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☆ ページ14

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「あー……えっとさ、私は人と自分の伝えたい言葉で話せないって、すごい苦しいことだと思うのね。
奪声症って失声症とは違うんでしょ？
私詳しくないから、その辺の違いはよく分からないけど」

――……つまり彼女は、自分の伝えたいことを自分の声で伝えられないことはつらくないのか、と聞きたいわけか。

でもそれを知ってどうするんだろう。
知ったところで、彼女には無縁だと思うのだが。

とにかく、彼女の質問に答えるためにメモ帳とボールペンを取った。

『私は元々口数が少ない方だったから、あんまりつらいって思ったことはないよ』
「……そうなの？」

もう一度頷いた。

「それじゃ、失声症との違いって何？
失声症はよく聞くけど、奪声症はあんまり聞かないよね」

ペンを持ち直して、彼女が知りたがっていることへの答えを書く。

『失声症は、トラウマとかで声が出なくなるんだって。
奪声症はこれといった原因はなくて、どうして発症するのか分かってないの』
「……じゃあ、Aはどうして？」
『私も急に声が出なくなったから分からない』

奪声症の治療法が確立されていないのはそのためだ。
失声症の場合、カウンセリングを受けて原因を特定出来るので完治することもあるらしいのだが、
奪声症の場合、大した原因が見当たらないがために治療するにも出来ないそうだ。

原因がないのであればカウンセリングを受けても原因が分かるわけがない。

そもそも奪声症の症状は、声が出なくなる、という症状ではないのだ。
それは寧ろ、奪声症の症状から引き起こされた状態なのであって、直接的ではないと聞かされた。

『でも』

奪声症。
声を奪う、と書くそれはあながち間違ってはいない。

この病気の名前は比喩でも何でもなく、本当にその通りなのだ。

『奪声症は声が出なくなる病気じゃなくて』

発症したとき、妙に納得してしまったのは元々望んでいたからかもしれない。
声が出なければ、心ない言葉で誰かを傷付けることなどないのに、と。

『声の出し方を忘れてしまう病気なんだって』

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