【金カム】地獄の果てで会いましょう 2【尾形】 (ページ46)

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思う人 2 ページ46

「鯉登、少尉殿…？」
「……尾形百之助か？」

その名前を聞いて心臓が大きく跳ねる。

「……あの男が、お前にそんな顔をさせているのか」

その問いに、私は肯定することも否定することもできなかった。だが、鯉登少尉は肯定と捉えたらしく、彼の腕に力がこもる。痛いくらいに抱き寄せられる。

「あの男は、危険だ…！一緒にいてもお前を傷つけるだけだ…！！」

そんなことないと、言えなかった。
だって、私自身もそう思ってしまったから。
尾形さんと一緒に居れば居るほど、心が苦しくなるのだ。まるで傷口に塩を塗り込むように、痛みが広がっていくような感覚。

私は、彼をどうしたいのだろうか。
どうなりたいのだろうか。

「私では駄目なのか」

絞り出すような声音だった。どこか緊張した面持ちで、鯉登少尉は私を見つめる。

「A、お前は鶴見中尉殿の指示で私が近づいたと思っているのだろうが…。私は本気だ。お前を幸せにしたいと思っている。私なら、絶対にそんな悲しい表情はさせない」

鯉登少尉はゆっくりと腕の力を緩めると、今度は両手で私の顔を挟んできた。
鯉登少尉は真剣だ。それはわかるのだけど、でも、鯉登少尉の想いに応えることはできない。
彼と家族になれたのなら、きっと幸せな家庭を築けるだろう。でも、尾形さんへの気持ちとは違うような気がする。

「……ごめんなさい」

やっと出た答えはそれだった。鯉登少尉への返事への謝罪なのか、尾形さんへの謝罪なのか、自分でもわからなかった。

「自分でも…、まだよくわからなくて……」

どうしてこんな気持ちになるのかもわからないし、自分の中に芽生えた感情の正体も掴めていない。
尾形さんに会いたいと願う反面、会えばまた苦しい思いをするのではないかと恐れている自分もいる。

「でも……どうしても、私は…彼を、尾形さんを……忘れることなんてできないんです……」

例え彼が私のことを想ってくれなくてもいい。ただ、側にいたかった。
そして、できることならば───。

そこまで考えて、私は思考を止めた。
それ以上は考えてはいけない気がして。
その先は、きっと良くないものだと思ったから。

鯉登少尉はそれを聞いて、悲しいような、怒っているような、複雑な表情を浮かべていた。

「お前は…あの男に騙されているんだ。…私は諦めんからな」

そう言って、彼はテントへ戻っていく。
残された私は何も考えられずに立ち尽くしていた。