旭川第七師団潜入作戦 ページ10
次の日の朝、私達は村を後にしたのだった。
牛山さんだけが名残惜しそうにしていたが、土方さんたちと合流するためにも先を急がなければならない。村長を騙っていた男は入れ墨の囚人であった。名は鈴川聖弘といい、彼は詐欺師だそうだ。彼が命乞いをした際に、他の入れ墨の囚人の情報を持っているというので、疑わしかったが生きたまま樺戸へ連れていくことにした。
正直、私達を騙していたような人間が役に立つとは思えなかったが、それはすぐに覆されることとなる。
白石さんが、第七師団に捕まったのだ。当初、白石さんは諦めようという雰囲気を出していたが、杉元さんの「助けたい」という一声で救出作戦が開始された。
その作戦に、どうやら鈴川を使うらしい。話し合いの末、網走監獄の典獄、犬童四郎助に変装して乗り込むことに決定した。
一体変装はどうするのかと鈴川の様子を伺っていると、髪や髭を剃り落とし、顔の筋肉の力の入れ方を変えると、全く別人の顔になった。これには驚かされた。
こうして、旭川の第七師団の駐屯地にむけて出発した。
潜入するのは、変装した鈴川と杉元さん。そして万が一に備え、尾形さんと私が兵舎の近くの林で待機することになった。
杉元さんと鈴川が駐屯地に入っていってしばらくたった頃。
隣で双眼鏡を覗いていた尾形さんがぽつりとこぼした。
「鯉登少尉が慌てて入っていった。まずいぞこれは」
鯉登少尉？一体だれだろうか。少尉ということは、鶴見中尉の部下か何かなのだろうか。あいにく、双眼鏡が一つしかないので状況がわからない。
そう思っていると、顔に出ていたのか尾形さんは淡々と答える。
「やつは鶴見中尉のお気に入りの“薩摩隼人”だ」
「と言うことは…鶴見中尉に潜入したことがバレたんですか？」
「ああそうだ。おそらくな」
それを聞いて血の気が引いた。もし、このまま二人が帰ってこなかったら……。最悪の事態が脳裏を過る。
すると、突然尾形さんの銃が発砲された。
「走れAッ！鈴川と杉元が撃たれた！」
尾形さんが木の上から飛び降り、私の手を引く。私は混乱しながらも、必死で足を動かした。後ろからは複数の軍人が追ってくる音が聞こえる。
「尾形さん！二人は大丈夫なんでしょうか！？」
「鈴川は頭を撃たれていた。あいつはもう助からんだろうな」
「そんな……杉元さんは？！」
「あいつは無事だ。白石と窓から飛び出したのが見えた。このまま合流するぞ」
私たちは森の中を走り抜けていった。
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作者名：塩わさび | 作成日時：2022年8月11日 22時
