05 残された言葉 ページ6
「はあ…」
思わぬ形で自分の正体を知ったAは、昨日の海坊主の言葉のせいでなかなか作業が身に入らずにいた。
「おはようAちゃん。昨日はゆっくり休めた?」
そんな中女将がやって来てAはようやく我に返る。
(…いけない。今は仕事中だ…)
「はい!ありがとうございました。お陰様でまた頑張れそうです」
切り替える為に明るく務めると、女将は「そうかい、そりゃあ良かった!」と満足そうに頷いた。
「…朝の仕込み、終わりました」
「あらそうなの?ありがとう!」
「いえ。今日は少なかったですし。あ、女将さんはゆっくりしてて下さい。掃除なら、私がやっておきますから」
そう言ってAが箒を片手に厨房の外へ出ようとした途端ーー
「あっそうそう!」
突然、女将が何かを思い出したかのように声を上げた。
「そういえば昨日、Aちゃんを尋ねて来た人が居たのよ〜」
女将の言葉にAは思わず固まってしまう。
「…私を、ですか…」
嫌な予感がして苦し紛れにそう口にすると、女将はそんなAには気づいてはおらず、明るい声でこう言った。
「そうよ〜随分素敵な人だったわよ。…全く、いつの間にあんな人がいたの?Aちゃんも隅に置けないわねェ」
興奮している女将とは対象的に、Aの表情は暗い。
(…やっぱり、海坊主さんの言う通り…)
ーー「気をつけろ。俺の息子…神威は君を探している」
ーー「何を企んでいるのかは知らないが、奴は何がなんでも君を探し出すだろう。…そうなったら君はーー」
(ううん…。今は考えるのはよそう…)
嫌な予感を振り切る様にAは頭を振る。
「あの、女将さん…」
「ん?」
「その人は…何か、言ってましたか…?」
恐る恐る尋ねてみると、女将は「Aちゃんが休みだって伝えたら、また顔出しに来るって言ってたわね!」と言う。
「そうですか…」
「やっぱりその人、Aちゃんのコレってやつかい?」
面白そうに親指を立てる女将にAは「そんなんじゃないですよ〜」と苦笑いを浮かべながら、胸の奥から込み上げてくる不安を必死に押さえつけようと、拳に力を込める。
(…大丈夫)
ーー「だって君は俺以外の人に心を許すことなんて出来ないだろ?」
(…あの人が居なくても、私は生きていける)
ーー「そう簡単に逃げられないよ」
(…私はもう、あの人にはーー)
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ソラ - ぽちゃさん» ぽちゃ様、はじめまして!コメントありがとうございます!そう言って貰えてとても嬉しいです。これからもぽちゃ様に楽しんでいただけるよう、頑張って作成していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします! (2021年7月11日 0時) (レス) id: 7df1aede10 (このIDを非表示/違反報告)
ぽちゃ - はじめまして!とても楽しく読ませていただいてます!もう好みの小説すぎてやばいです!笑笑これからも応援してます! (2021年6月29日 13時) (レス) id: fffe7db0be (このIDを非表示/違反報告)
ソラ - あう!さん» コメントありがとうございます!なかなか更新が出来ず申し訳ないです汗 必ず完結させたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします! (2021年6月25日 1時) (レス) id: 7df1aede10 (このIDを非表示/違反報告)
あう! - ぜったい完結して欲しい楽しみにしてます (2021年6月12日 13時) (レス) id: 158b42c9c3 (このIDを非表示/違反報告)
ソラ - 由岐さん» コメントありがとうございます!一気読みって…!凄く嬉しいですありがとうございます!更新が遅れてしまい、申し訳ありません! (2021年3月4日 3時) (レス) id: bc2235ffe1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ソラ | 作成日時:2020年12月31日 16時