＊１１０話 ページ40
香夜子は再び語り始めた。
「ある日、息子が雪山で行方不明になったと母親が、うちのところに相談に来た。
うちには、はっきりと雪の下に埋まってる息子の躯が視えた。
躯の眠る場所を紙に書いて渡し、一週間後息子が無事に帰ってきたと母親が礼を言いに息子を連れてきた。
それが霧仁さま…。
その姿は間違いなくうちが、雪の下で見た躯のまま」
それが香夜子と霧仁さんの出会いなのだろう。
だが、それは可笑しいと感じた。
雪の下に居たというならば、それは生きているわけがない。
「生きてるはずがない。
多分、もうそこにおるんは人間やない…。
何者かもわからない」
香夜子は気付いていたのか。
「だからこそ、霧仁様ならうちのこと助けてくれる。
人間やないからこそ、うちは甘えられるねん」
(人間じゃないってことは妖怪ってこと……??)
「香夜子っ!大丈夫なの…!?」
「…ふふ。
どうしたんやろかうち…
アンタにこんなことペラペラしゃべって…」
(あ、それは私も疑問に思った)
「…どうしてか、アンタになら言うてもいいかって思ってしもて……」
もし、香夜子が私を信頼してくれたのならそれは嬉しい限りだ。
「香夜子!」
(だめだ…これ以上卵に気を与えさせらんない)
「病院に…」
病院に連れて行かねばならない。
――ﾋﾟｼｯ
「ｷｬｯ」
香夜子の卵から溢れている雷のような静電気。
「それに近付くな、せいか!」
マモル君が私を近寄らないように告げる。
「その卵の術者は自分の力以上の式神を作ろうとしてる」
(香夜子が自分の力以上の式神を……??)
「中の式神は孵化するまでそれ相応の養分を術者から吸収し続けるんだ」
「どうすればやめさせれるの!?」
「やめさせるには、割るしかねぇよ」
割るということは、香夜子の努力を壊すということになる。
「……あかん」
弱々しく香夜子に止められる。
「放っていてくれ土地神……出雲に行くって霧仁様に……約束したんや……」
誰かのために頑張っている香夜子の努力を壊すなんてできない。
「割らないよ」
(私には割ることができないよ)
「割れないよ」
香夜子の卵を私は割ることができない。
「その場凌ぎでいい。その卵を結界で寝かしつけてマモル君」
どんな形をしていてもその中には、香夜子の想いがつまっているのだから。
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