＊１００話 ページ21
三番右膝をついた状態で左手に神楽鈴。
四番は正面玉串を前に翳して右足から一歩下がる…。
「土地神様もう一時間もああしてますのよ」
一時間も経っていたのか…。
「何か悪いものでもお召しになったのかしら」
寧ろ何も食べてませぬ。
「土地神様お時間でございますよ」
「…は、はいっ」
もう時間なの…!?
ダメだ…頭が茹だってて集中力が…。
「神の舞を間近に拝見できるんですもの」
「千年に一度の幸運でございますわ」
それ以上のﾌﾟﾚｯｼｬｰはやめて…!?
「皆 すでに待っておりますよ」
大勢の人達が集まっている…。
「…ごめんなさい。私 ちょっと準備してくる」
…六番は…。
六番の始まりは…始まりは…?
出てこない。
頭が真っ白。
もし本番で…何も出てこなかったら。
「聖華 面をつけるぞ」
「巴衛……」
みんなに失望されたら…?
そう考えると涙が出ていた。
「どうした聖華」
「…な、なんでもないよ!早くお面付けなきゃ…」
「おい…」
「大丈夫っ なんでもないのっ」
大丈夫じゃない。
頭の中が真っ白になってる。
「聖華…」
「大丈夫だから!」
ここで失敗なんてできない。
「……え?」
なんで巴衛は私の手にキスをしてるのだろう…。
「お前は俺が主人と認めた娘」
認めた…?
巴衛が…?
私を…?
「臆するな。俺に応えてみせたように皆にお前自身を示してやればいい」
私自身を…。
「…バカ」
私って本当に単純。
「そんなこと言われたら」
でも頑張ろうって気持ちになれる。
「期待に応えたくて堪らなくなったよ」
なにがあってもあなたが信じてくれているから。
私もう怖くないよ。
見ていてほしい。
そして始まった本番。
不思議…皆が見てるのに目に入らない。
瑞希の笛も聴こえないのに体が自然にリズムを刻んでいる。
自分の体じゃないみたい。
『大丈夫。流れに任せて』
声が聞こえる。
『体を預けてごらん。そうすればほら小さな奇跡がひとつ』
その夜、祭は最高潮に達して訪れた者の心を鮮やかに彩っていきました。
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