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俯きながら貰ったチョコレートを一つ頬張り、心を落ち着かせる。お父さんの時程では無いけれど、やっぱりこの事を話すのは緊張する。
舌の上で溶けきったチョコレートを喉に通し、高級感溢れる革の椅子に腰掛ける校長先生の方へ顔を向けた。
言いづらい。重たい空気は元々好きじゃないから。お母さんのお葬式の時も、そういった空気が嫌でずっとソワソワしていた記憶がある。
『その、あー…えっと……』
伝える事はたったの十数文字分しかない。けれどその十数文字がなかなか口から出てこなかった。
意味の無い繋ぎを繰り返すだけで、相澤先生がこの場に居れば合理的じゃ無いとかなんとかで頭をしばかれたことだろう。
頭しばかれるって、時代違くない?
今そんな事を考えている場合じゃないが、どうしても何か別の事を考えてしまう。
ダメだ。きょーかが校門の前で待ってるし、校長先生だって暇なわけじゃ無い。気合いを入れるためにバシッと自らの両頬をひっ叩き、頰にヒリヒリとした痛みを感じながらなんとか言葉を絞り出した。
『これ…私の人生、あと4日しか無いんだって。お医者さんのせんせーが言ってた。』
校長先生に病院で貰った物を手渡す。
それを受け取り、小さな目でそれに目を通す先生。紙がめくれる音が、ハッキリと私の耳に届く。何となく居心地が悪く感じて、いつの間にかスカートの裾を握っていた。
「なるほどね。君は__」
トントンと爪が机を叩く音を響かせながら、校長先生は私の目を真っすぐ見て聞いた。
先生ってネズミだからなのか案外表情が乏しい。先生の感情は基本話した時の声音や動作で判断するんだけれど、今は全くと言って良いほど読み取れない。
先生と私しかいない校長室。今更思いついたが、校長先生より先に担任の相澤先生に相談する方が正しかったのかもしれない。
『もちろん……そのつもりです、先生。』
聞かれた内容に対して、私ははいと答える。
いつもの砕けた口調にするのも忘れて、真面目にそう答えた。それ程までに、校長先生から聞かれたことは私の中で大きいものだった。
『なりたい自分になるために、最後まで前を向いていたいから。』
失礼しました。礼儀作法のお辞儀をして校長室から飛び出す。早くきょーかの元に行きたいのと、今までの緊張を揉み消したかったのとで、全速力で廊下を駆け抜ける。
それが原因で、重い荷物を負担している私の肩は悲鳴をあげていた。
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トマトまと(プロフ) - 完結おめでとうございます!主人公に感情移入してしまい、気付いたら「私は数日後に死んでしまうんだ」という気持ちで読んでいました。友人や家族を思いやっていて素敵でした。素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました!!! (2022年10月26日 22時) (レス) @page40 id: 1d9d2ab89b (このIDを非表示/違反報告)
ぽちゃ - はじめまして!完結おめでとうございます!とても感動したし、命の大切さなどもより知れました!この作品に出会えてよかったです! (2021年6月20日 18時) (レス) id: fffe7db0be (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - ヒマワリさん» 感想をいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます!!私自身恋愛よりヒロアカ女子との友情が見たかったのでこうしたんですけれど、喜んでくださって嬉しいです!!ちょっと小躍りしてます笑笑 (2020年8月13日 19時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
ヒマワリ(プロフ) - はじめましてこんにちは。完結おめでとうございます。自分はすごく涙脆いのですが、今回のこの小説はかなりヤバかったです。めっちゃ泣きました。それと同時に、響香ちゃん推しなので、響香ちゃんの出番が多い話が見れて嬉しかったです。長文失礼しました。 (2020年8月13日 19時) (レス) id: c31f8595d4 (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - たぴさん» ああ…えもえものえも過ぎます…(語彙力)感想嬉しいです、ありがとうございます!! (2020年8月9日 18時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:でででででん | 作成日時:2020年5月29日 18時