溺愛される鬼少女③ (ページ9)

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切ない夜④ ページ9

あの後、隠の人たちが来てふたりの事を頼んだ。

「…私はもう失いたくないんだよなぁ」

蝶屋敷の屋根の上、夜明け前の空に消えた声。
フワッと暖かい風が吹いた気がした。

「よもや！悲しい声が聞こえたぞ」

「杏寿郎さん…」

すっと私の隣に座った杏寿郎さん。

「…任務で人を救えませんでした」

「そうか」

「もっと早く私が鬼に気づいていたら変わったかもしれない…後悔したって戻らないのに、そう考えてしまうんです」

抑えていられなくてポロポロ言葉が次々に出てくる。

「全てが出来たとしても結果は同じだったかもしれない」

「…」

「誰にも分からないんだ。君だけじゃない」

みんなそうだと言いながら私の頭を優しく撫でる手がすごくくすぐったい。

「他にも悩みがあるなら聞こう！ちょうど任務も終わって暇だからな」

「ありがとうございます、杏寿郎さん」

「いいんだ。遠慮するな」

この言葉に甘えてしまってもいいかな。
許してほしい。

「…もう誰も失いたくないんです。誰にもいなくなってほしくない」

「…」

「誰かの悲しい声を聞くたびに、誰かの怪我をみるたびに…心が張り裂けそうになる」

真っ直ぐに私を見つめてくれるその瞳。
私は失いたくない。

「人間って切ない生き物ですよね。私は鬼だから簡単には死なないから余計にみんながいなくなるのが怖いんです」

「そうだな」

「…杏寿郎さんは私より早く死なないでください」

わがままで面倒くさいって分かってる。
だけど言わずにはいられないこの思い。

「お願いですから、ずっと生きてください」

「約束しよう！俺は死なない！！」

杏寿郎さんが立ち上がってそう言った瞬間、朝日が昇り始めた。

「…そして、いつか君は人間に戻れ！」

「杏寿郎さん…」

「人間でも鬼でも君の事は必ず俺が守ってみせる」

太陽のような笑顔を私に向けてくれた。

「…っはい」

失いたくない、この人を。
みんなを。