溺愛される鬼少女③ (ページ30)

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別れは突然に③ ページ30

「A…」

近づいてくる義勇さんから逃げるように後退りするけど力が抜けて立てなくなった。

「大丈夫か？」

手を差し出してくる義勇さん。

「大切な友人を亡くして大丈夫だと思いますか」

こんな事言ってはいけないのに。

「正は人を喰ってない」

止まらない。
止めたくない。

「文には正だけなのに！」

義勇さんを睨んだ。
少し戸惑う義勇さん。

「…すまない」

どうして、謝るの？

「…返してよ」

義勇さんは悪くないのにどうして謝るの。

「すまなかった」

私に近づいてきて立たそうとする義勇さんの手を叩いた。

「触らないで」

一瞬傷ついた顔をして俯いた義勇さんを無視して消えてしまった正と血を流して倒れる文の元に行った。

まだ、ふたりの子供見れてない。

「ごめんね、文」

もう目覚める事のないその顔に手を当てる。
だんだん温もりを失っていく。

「ごめん、ごめん…っ」

私は見てるだけで何も出来なかった。

目を背けたかった。
見たくなかった。

「っ嫌！嫌だぁ死なないでよぉ」

溢れ出る思いが大きくて
声を上げて冷たい体に泣きついた。

こんな別れは嫌。

私が早く鬼の気配に気づけばよかったのに。
無惨の気配に気づけばよかったんだ。

もうどれくらい泣いたか覚えていない。

気づけば朝になっていて隠が来た。
その間もずっと義勇さんは近くにいた。

顔をあげると隠と目が合う。

「え？お、鬼…」

青ざめた顔の隠がそう言った。
悲しみでおかしくなったせいで私の見た目は醜い鬼になっていたらしい。

「なんで、焼けないんだ…！」

否定する気力もない。
ごめんなさい、お館様。

ザッと足音が隣で止まった。

「大丈夫だ。この娘は人を喰わない」

「み、水柱様…」

「お館様も柱も皆この娘を大切にしている」

口下手な義勇さんがそう言った。

こんな優しい人を責めてしまった自分が嫌で
惨めで仕方ない。

「すまないがこの娘を蝶屋敷まで運んでくれ」

そう義勇さんは言って去った。