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暫くの沈黙。その末、折れたのはAの方だった。「わかりました、お教えしますよ」と溜め息を着いた。
「私の異能でしたよね。」
彼女は胸元に刺さったペンを手に取り、勢いよく振りかぶった。がたり、その場にいた全員が臨戦態勢に入ったと思われた。然し、その光景を前に動きが止まる。そのペンは、福沢の眉間のすぐ目の前で止まった。福沢は、微動だにしない。
「止まってる………?」
「
そのペンを、一同がよくよく観察する。それは明らかに止まっているようにしか見えなかった。目視ではその変化は一切わからず、そのペンはそれほどまでに遅いスピードで動いているのだ。
「これが、貴君の異能か。」
「えぇ。これで、満足いただけましたか。」
彼女は福沢に近寄ると、速度の遅くなったままのペンを手に取った。そして、何事も無かったかのように胸の
「これで会議は終わりですね。では。」
「ちょっと待った!」
彼女を呼び止めたのは、今の今までなんの関心も示さず駄菓子を食べていた江戸川だった。「なにか?」と彼女が振り向く。
「太宰に言われなかったの?」
「何をです?」
「"言っておくけど……誤魔化しは効かないよ?今日は、乱歩さんが居るからね。"って。」
一語一句、間違えること無く発した江戸川に、彼女は目を見開く。その男の観察眼、推理力、どれもこれも侮ってはならぬものだ。
「……異能はお見せしましたよね?」
「確かに見せてもらった。でもさ、まだ隠してることがあるよね?皆の事は騙せても、僕の目は誤魔化せない。」
きらりと光緑色の目が彼女を捉えた。
「……黙秘します。今話した内容が、私の中では大きな進歩ですよ。これ以上は何もお話することは出来ません。」
「正直な話、まだ入社したての君を信用しきれるかって言われるとそうじゃないんだよ。分かる?」
「勿論。だから私の能力を知っておく必要がある。そんなの最初から分かっていますよ。それと同じように、私は今の所あなた方を信じていない。」
「少しも?」
「えぇ、露ほども。」
彼女はハッキリとそう言った。眼鏡を押し上げて「そういう訳ですので。今度こそ失礼します」と言い残し、会議室を出た。彼女を止める者は、誰も居ない。
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琉亜 - うち的にはもうちょい安吾との絡み見せて頂きたい (2023年2月23日 23時) (レス) @page7 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年4月29日 1時