検索窓
今日:11 hit、昨日:1 hit、合計:64,998 hit

・28 ページ28

暫くの沈黙。その末、折れたのはAの方だった。「わかりました、お教えしますよ」と溜め息を着いた。





「私の異能でしたよね。」





彼女は胸元に刺さったペンを手に取り、勢いよく振りかぶった。がたり、その場にいた全員が臨戦態勢に入ったと思われた。然し、その光景を前に動きが止まる。そのペンは、福沢の眉間のすぐ目の前で止まった。福沢は、微動だにしない。





「止まってる………?」

速度(スピード)を操る異能力です。それは止まっているのではなく、動きが遅くなっているだけ。」





そのペンを、一同がよくよく観察する。それは明らかに止まっているようにしか見えなかった。目視ではその変化は一切わからず、そのペンはそれほどまでに遅いスピードで動いているのだ。





「これが、貴君の異能か。」

「えぇ。これで、満足いただけましたか。」





彼女は福沢に近寄ると、速度の遅くなったままのペンを手に取った。そして、何事も無かったかのように胸の衣囊(ポケット)にさした。





「これで会議は終わりですね。では。」

「ちょっと待った!」





彼女を呼び止めたのは、今の今までなんの関心も示さず駄菓子を食べていた江戸川だった。「なにか?」と彼女が振り向く。





「太宰に言われなかったの?」

「何をです?」

「"言っておくけど……誤魔化しは効かないよ?今日は、乱歩さんが居るからね。"って。」





一語一句、間違えること無く発した江戸川に、彼女は目を見開く。その男の観察眼、推理力、どれもこれも侮ってはならぬものだ。





「……異能はお見せしましたよね?」

「確かに見せてもらった。でもさ、まだ隠してることがあるよね?皆の事は騙せても、僕の目は誤魔化せない。」





きらりと光緑色の目が彼女を捉えた。





「……黙秘します。今話した内容が、私の中では大きな進歩ですよ。これ以上は何もお話することは出来ません。」

「正直な話、まだ入社したての君を信用しきれるかって言われるとそうじゃないんだよ。分かる?」

「勿論。だから私の能力を知っておく必要がある。そんなの最初から分かっていますよ。それと同じように、私は今の所あなた方を信じていない。」

「少しも?」

「えぇ、露ほども。」





彼女はハッキリとそう言った。眼鏡を押し上げて「そういう訳ですので。今度こそ失礼します」と言い残し、会議室を出た。彼女を止める者は、誰も居ない。

・29→←・27



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (209 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
187人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

琉亜 - うち的にはもうちょい安吾との絡み見せて頂きたい (2023年2月23日 23時) (レス) @page7 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年4月29日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。