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時は戻り、現在。アダムは困惑した目で太宰と中原を交互に見比べている。





「えーと……これは一体どういう状況でしょう?」





都心から離れた飛行場は何処までも静かで、宵の口の星がまたたく音まで聞こえて来そうだった。遠い格納庫で、整備士が二人、プロペラ機の点検を行っていた。声はここまで届かない。中原は紐を持っていた。その紐は太宰の腰に幾重にも巻き付けられていた。独楽の心棒に巻き付けられた紐のように、ぐるぐるに。





「これはね、時間を節約しているんだよ、機械の捜査官さん。」





太宰がどうでもよさそうに微笑んだ。





「時間を……節約?」

「そう。何しろ間もなく一世一代の待ち伏せ作戦が始まるからね。」

「人間の言葉は難しすぎます。当機のデータベースに解釈可能な類似状況がありません。」

「心配するなって。人間にも分からないから。」





中原から少し離れたところに、白瀬が立って腕を組んでいた。諦めている人間の目だ。中原は黙って紐を引いた。引いて、引いて、立ち上がって後退しながら引いた。紐に引かれた太宰がくるくると回転した。そんな中でも、彼女は写生を続ける。

そして太宰は回転しながらも、状況の説明をしていた。




「森さんの影武者を使って、ヴェルレエヌさんを誘き寄せる。そこでマフィアの武闘派をありったけぶつける。うまく追い詰めることが出来れば、ヴェルレエヌさんは切り札である『門』を開くだろう。そうしたら中也が飛行機で接近する。」





それだけの台詞を、太宰はゆっくり回転しながら言った。声が向こうを向いて遠くなったり、こちらを向いて近くなったりした。それから完全に紐を引っ張りきって太宰が斜めになったところで、中也は手を離した。

「接近するとヴ」回転する太宰。「ェルレエヌは攻撃を仕」回転する太宰。「掛けてくるだろ」回転する太宰。「う、でもそれも計」回転する太宰。「画のうちだ。敵の」回転する太宰。「攻撃を中」回転する太宰。「也の重力で中和」回転する太宰。「しつつ接敵、触れ」回転する太宰。「る位置にまで」ようやく止まる太宰。「届けば僕達の勝ちだ。ウエェ」

吐いた。

アダムは嘔吐く太宰をどうしようもないという顔で見て、Aへと目を向ける。この状況でも、写生に集中している。





「話が頭に入ってきません。」





中原が戻ってきて、再び太宰の胴に糸を巻き始めた。

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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年4月10日 12時

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