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「あ!織田作!」
拠点周辺の掃除をしていると、この場には似つかぬような明るい声がした。振り向くと、先日紹介されたAと、黒髪の少年が居た。
「Aか。そいつは?」
「私の部下よ!」
「横光利一です。」
その少年は丁寧に頭を下げた。横光利一の名は勿論聞いたことがある。刀を振るう少年で、既に大人に混じって戦場に出向いているのだとか。
「織田作之助だ。」
「知ってますよ。Aがずっと貴女の話しかしなくて……首領に聞いて、ここに来ました。」
「ねぇねぇ織田作、あなたは狙撃の名人だって聞いたの!」
「別に名人という訳では無いが……何処でそれを?」
「兄様!」
彼女はきらきらと目を輝かせている。きっと、銃に興味があるのだろうと直ぐに分かった。彼女はその身を守るため、中原や尾崎達に稽古をつけて貰っているという話は太宰から聞いていた。
「あのね、私にも銃を教えて欲しいの!」
「俺にか……」
「そう!」
正直、その幼い少女にそんな物騒なものを教えるのは気が引けるし、何より覚えて欲しくない。然し、この組織にいる以上何があるか分からないのも事実。己の身を守るのは大事な事である、というのは織田も理解していた。だからあの過保護な太宰が稽古を許しているのだ。
「太宰はなんて?」
「織田作なら心配ない!!って!」
「……そうか。」
正直、過信し過ぎだと思う。自分は普通の男だと言うのに、そうまで信頼されるとむず痒くて仕方ない。
「………いいぞ。俺でよければ扱い方くらいなら教えよう。」
「ほんとに!?」
「ああ。」
「やった!としちゃん、聞いた?教えてくれるって!」
「聞いた聞いた。」
Aは横光の手をぶんぶんと振って喜びを表現している。横光は呆れたように笑っていた。
「お前はなんで銃を学びたいんだ?」
織田にとって純粋な疑問だった。彼女は稽古をつけられていると言っても、戦場に赴く訳では無い。太宰がそんな事させるはずもない。
「ん〜……何時かのため!」
少女は笑った。少女は自身の身体能力の高さに気付いていた。そして、彼女の次にそれに気づいたのはヴェルレエヌだ。太宰は自分を守ると言った。然し、彼女が恐れるのは守る対象である自分に、兄が興味を無くしてしまった時だ。だから己の力を隠している。
その言葉の意味を、織田と横光が理解することは無かった。
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年4月10日 12時