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結局ポートマフィアに連れ帰られてしまった彼女は、厳重な警備の元、個室に隔離されている。全く信用されてないな、と彼女はオーバーテーブルに項垂れた。
『這入ります。』
小さな叩敲の後、個室の扉が開かれる。そこには、布の被さったバスケットを持った芥川の姿があった。遊撃隊の隊長である彼にしては、随分と可愛らしい姿だ。
｢やぁ、芥川くん。｣
｢御加減は如何でしょう。｣
｢変わりないよ。どこも悪くないのに絶対安静だなんて過保護だと思わない？｣
｢どうぞ座りな｣と、彼女が寝台の横にある椅子を指すと｢失礼｣と頭を下げてそこに座った。
｢此方、銀から見舞いです。お口に合いますでしょうか。｣
｢態々どうも。何が入ってるの？｣
｢Aさんのお好きな林檎のタルトです。銀が張り切って作っておりました。｣
｢それは嬉しいね！芥川くんも食べる？｣
｢いえ、僕は先程無花果のタルトを食したばかり故、お気遣いは無用です。｣
｢そう。それじゃあこれはおやつの時間に頂こうかな。銀ちゃんにもお礼を言っておいて。｣
｢はい。｣
彼女はそのバスケットを受け取り、反対にあったサイドテーブルに置いた。
｢……Aさん、何故包帯を？｣
｢あぁ、これかい？此方だけ色が違うからね。｣
彼女は左目にかかった包帯を少しずらしてそれを見せる。あの日、芥川もあの場所にいた。ちらりと見えた、輝く翠眼。そこにはあの日と同じ翠眼があった。
｢知らない者の方が多いからね。負傷、死亡していた構成員が多かったし。死亡者は何人だったかな。｣
｢凡そ、百二十数名ほど。｣
｢そう……後処理は大変でしょう。悪いね、任せてしまって。｣
｢否。｣
｢私はね、別にこの色は嫌いじゃないんだよ。視界も悪くなるし、戦いには向かない。最悪だ。でも左右で色の違う目を持った幹部なんて、直ぐに覚えられてしまうでしょう。それに、この色は母の色だ。あまり汚したくはない。｣
そう言って、彼女は包帯の上からその目を撫でた。記憶にも殆ど残らない母親。然しその母は、彼女にとって唯一の母であり、それが今後揺らぐこともないのだろう。
｢………太宰さんと和睦なさったと聞きました。｣
｢そんな大層なものでもないよ。………嬉しいかい、芥川くん。｣
｢…………喜ばしい事です。｣
こほん、と小さく咳をする。その言葉は、芥川にとって心からの言葉だった。
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作者名：花蛸花
| 作成日時：2022年3月31日 8時
